浪漫奇譚

□[3]輝石の戦士、ジュエルスター
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今日は遅刻しなかったぞ、と夏輝は職員室で出勤簿に自分の印を押していた。
それもそのはずで、昨夜一睡も出来なかった。

天宮司とのキスは弾みでちょっとした事故だと思い込もうとしたが、そう思えば思うほど、鮮やかによみがえってしまう感触や、天宮司の顔にもう寝るどころではなくなってしまった。

自分がこれほどウブだったとは我ながら情けない思いだ。

「火嶋先生? 顔色がすぐれないようですが、どうしました?」

夏輝を笹野が目ざとく見つけ話しかけてきた。

「笹野先生…、な、なんでもないっすよ。俺ってば元気ですから」
「そうですか? でもいい色していないですよ? 保健室で少し休みますか?」

笹野の心配はありがたいが、あまりに気遣われるのは閉口する。
先ほどから背中に感じる視線は多分教頭だろう。

「保健室は生徒のものでしょう? 俺は大丈夫です」
「火嶋先生、本当に顔色良くないですよ。やはり保健室に行きましょう。一時間目に授業は入っていませんね」
「ちょ、ちょっと笹野先生!」

腕を取られ強引に職員室から連れ出される。

時計をちらりと見たが、始業までまだ少し時間があった。

視界の端に教頭の姿が入った。
宇納教頭は夏輝のほうを見ていたが、小さく首を横に振ると自席に戻ってしまった。
あまりのことに呆れられたのかもしれない。
 




 
「火嶋先生、ここに」

ベッドを仕切っているカーテンを開けると、笹野が横たわるように勧めた。

「はぁ……」

夏輝が渋々ながらもベッドに横になると、笹野は戸棚から血圧計を取り出し、慣れた手つきで夏輝の腕をめくる。

「笹野先生?」

何をするのかなど訊くまでもなく、測定用のベルトを上腕に巻き、加圧した。

腕が圧迫される。
しばらくして、電子音がピッと鳴ると笹野はその数値を何かに書き留める。

「先生、どうして俺を構うんですか?」

夏輝はかねてからの疑問を口にした。
顔色が悪いと保健室に引っ張ってこられたのは、実は今日が初めてではない。

「そうですか? 養護教諭として当たり前だと思いますが?」

次に笹野は体温計を取り出した。

「先生が生徒みんなの健康を気遣っているのは分かりますが、でも教師の俺まで」
「分かりませんか? それは残念です」
 
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