アニキの恋人
□アニキの恋人3
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オレは少しだけ首を回して室岡さんの顔を横目で見た。
すっととおった鼻筋も、どちらかといえば薄いかなと思う唇も、顎の線も。
決して女っぽくは見えないんだけど。
そのまま目線を下げて、開襟シャツから覗く白い肌についドキリとした。
ああ、もう。
そうなのだ。
この室岡さんはアニキの恋人なのだ。
そりゃ面と向かって紹介されたわけではないし、こちらから聞いたわけじゃないし、まだどっかでは違っていたらいいのにって、まだそんなことないよねって、思ってたりするけど。
でも多分。
間違いなくて。
何にもない、ただの友人なら、あんなことしないから。
だって、見ちゃったんだ。
アニキと室岡さんがキスしてるところ。
それもさ、ベッドにひっくり返ったアニキの上に乗っかった室岡さんから。
マンガやドラマでは見たことあったけど、実際ナマで見たのは初めてで、オレびっくりしちゃって。
でも不思議といやらしいとか気持ち悪いとか思わなくて、あとで考えたら、男同士だし。
変だって思うのが普通なのかもしれないけど、ただあのときは「この人はもうアニキのものなんだ」って、それだけだった。
そして息がつまったのは、そういうとこ心の準備もナシで見ちゃって、驚いたから。
きっとそう。
オレが見てしまったことは当然室岡さんもアニキも知っている。
でも何もなかったような態度を取るから、オレも黙っている。
親に言いつけるとか、そんなガキなことはしない。
「実はさ、慶南志望してるツレがいるんだけど学校体験行ったら文化祭の話が出て絶対行きたいって言ってるんだ」
「忠敬くんの友達が?」
オレは頷く。
これは本当のことだし。
「アニキが慶南行ってるっていうのみんな知ってて、チケット頼まれたんだけど――」
ごにょごにょと言葉尻が弱くなった。
どう言えば上手く伝わるのかな。
「アニキに頼むのは何かイヤなんだ」って、言ったほうがいいんだろうか。
「三上とまたやりあった?」
うーん、と考え込むオレに室岡さんがさらりと言う。
「あははは……」
オレはつい「笑ってごまかす」をした。