アニキの恋人
□アニキの恋人3
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「うん。慶南の文化祭行きたいなって」
「あれ? 忠敬くん、慶南志望だった?」
そうきたか。意外そうな顔を向けられてしまった。
やっぱり受験生が高校の文化祭に行きたいって言うとそっちを思われてしまうんだね。
これでは室岡さん(とアニキ)が通っている高校に興味があって遊びに行きたいからって言えなくなってしまう。
そりゃチケットを頼んできたツレは慶南を志望しているけど。
実のところ、オレの成績ではちょっと内申足りなくて、志望したとしても当日の試験のデキに大きく左右されるいわゆるボーダーラインだ。
でも頑張れば何とかなるかもとは担任には言われている。
もう一つランクを落とした学校を推されているにしても。
「ま、まあそう。そうです。こっからなら慶南近いし、兄貴も行ってるとこだし」
でも行けたらいいなって思っているのは本当。
こうして室岡さんに勉強をみてもらうようになって実力テストの結果もちょっとよかったこともあって。
「だったら、三上に言えばいいんじゃない? あいつ招待券持ってるよね」
「それはそうなんだけど……」
本当はそっちがスジなんだろうな。
何ていったって身内、弟が兄の行っている高校の文化祭に行きたいと言えば、招待券を融通してくれるのが当たり前なのかもだけど。
でも、アニキに頼むことにオレ自身、ちょっと抵抗を感じるのだ。
何か頭を下げなくちゃいけなくなるのが面白くない。
兄弟仲は悪くはないとは思ってるけど、多分その理由は室岡さんだ。
今この時間こうやって室岡さんに勉強をみてもらっていても、たいてい部活を終えたアニキが帰ってくるまでだった。
放課後ほんの二時間、オレが室岡さんを独占できる時間。
そのあと室岡さんは、今度はアニキの勉強をみる。
そりゃね、はじめからそんな感じだったんだけど。
でもオレはそれが面白くなかった。
なんていうか独占欲みたいなもの。
うちのアニキと違って室岡さんは面倒見がいいというか、本当に優しくて頼りになるお兄さんなんだ。
実の兄よりもね。
でもその室岡さんとアニキは――オレなんかが割り込めるような関係じゃなくて。
うわっ。
ちょっと思い出してしまった。
部屋に引きこもったアニキと室岡さんがやっていたこと。
「忠敬くん?」
「えっと。あの、その」
言葉を濁して黙ってしまったオレに、室岡さんが「どうしたの?」ときいてくる。