アニキの恋人
□アニキの恋人2
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「あ! もしかして?」
何度目か繰り返し読んだところで閃くものがあった。
さっき教えてもらった公式の一つを利用して式を作る。
「そう、あたり。その公式使うんだ。よく理解したね」
「やった」
嬉しかった。
問題が解けたこともあるが、誉められたことのほうが嬉しい。
兄と違って運動神経がいいわけでもなく、かといって勉強が出来るというわけではない忠敬は誉められるという経験があまりない。
「じゃあ、こっちもやってみようか。今のが出来たんだからもうこのタイプの問題は出来るよ」
「そうなんですか?」
「うん」
横目で室岡を見上げた忠敬は、その自分を見つめる優しげな眼差しに、胸がドキリとした。
そりゃ整った顔してるなとは思うけれど、と忠敬は思う。
しかしごく普通に男なのだ。
兄と同じ年の。
それなのに。
なぜこうも室岡を意識してしまうのか、それは分かっていた。
もしかしたら、室岡は兄の恋人なのかもしれないのだ。
男同士で、と思う。
でも最近はそういうのも珍しくない気もする。
いや、そんなのはやっぱりおかしい。
しかし、確かめたわけではないのだ。第一何もなかったとして、こんなこと考えているなど、知れたら室岡に失礼ではないか。
でも、もしかしたら?
ちょっとした懸念。けれど取るに足らないことかもしれない。
聞いたら一笑に付されてしまうような。
いや笑ってもらえればそれにこしたことはないが、場合によっては怒らせかねない。
でも気になる。
部活に忙しく、いったいデートなどいつしているんだという兄と、忠敬が覚えている限り一緒にいる室岡。
この夏、兄に彼女、というか特定の人が出来たのは間違いない。
その人は料理上手。
それだけなら、羨ましくも歓迎だ。
だがこの室岡という兄の友人は料理が上手かったのだ。
先日食べさせてもらったオムライスは美味しかった。
母親が作る固い薄焼き卵で包んだケチャップ味のご飯の物とは大違いだった。
美味しくてお代わりまでして食べた。
喜んで食べていたのが分かったのか、室岡は、今度はご飯から炊いて作ってくれると言ってくれた。
忠敬を悩ませる、兄の友人。
まさか?
だけど?
本当だったら?
でもそれよりも室岡がいい人だったりする。
何よりも室岡が家に来てくれるのはありがたい。
勉強を見てもらえるのもそうだが、フルタイムで仕事を持つ母親のおかげで、まま出来合いのものが多くなる食事が変わったのだ。
といっても腹を空かせた育ち盛りに、簡単な間食用のおやつを作ってくれるぐらいだが。
それでもおやつといえばスナック菓子が多かった食生活を振り返れば、大きな変化だ。
それから室岡の家は複雑らしい。
家にあまり帰りたくないようだった。だから忠敬の家に来たときは、時間の許す限り遅くまでいる。
兄も室岡の家の事情はよく知っているようで、逆に室岡が気遣いしないように引き止めている。
もちろん忠敬もそれは賛成だった。
まるで餌づけされた気もしなくはないが、兄がもうひとり出来たような今の状態は心地いい。
もし本当に室岡が兄と特別な関係だったとしても、きっと今まで通りに接せられる。
多分――。