トライアングル・トライアル

□[5]それでも好きな気持ちは止まらない
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遼平は考える。

志波は六歳上の大学生。
自分など相手にならないだろうし、しないだろう。
現に、遼平には理解し難いが、あの二人が友人以上の関係でつき合っているのは間違いないのだ。

そういうのが大人の恋の形なのかもしれないとしても、康祐と志波の関係を思うと胸が痛くなる。
この気持ちが、もしまがいものだったなら、康祐と志波のことを知ったとき、冷めていただろう。

考える。
志波を思うと苦しくて堪らない、この気持ちが果たして何なのか。
見誤ってはいけないのだ。
冷めないからといって、兄への対抗意識を取り違えていないか。

中学生でしかない自分が堪らなく悔しい。
自分にもっと背があったら。
広い胸があったら。
抱き込んで離さない太い腕があったなら――志波にあんな辛そうな顔をさせやしないのに。

そうだ。
だから、この気持ちは恋だ。
自分以外の、家族以外へ向けた、大切にしたいという思いはまぎれもない。
初恋――そして、片思い。

気がつけば、外を走っていた。
もうすっかり暗くなっていた。

向かうのは志波のアパートだ。
今自分に何ができるというのだ。
顔を会わせれば、感情のまま言葉をぶつけてしまいそうで。
そうなればきっと志波を困らせてしまう。
それでも会いたい――。

いや違うんだ。
会うつもりはないのだ。

ただ少しだけ。
志波の近くにいたい。
志波の存在を感じたいだけなのだ。

「ええいっ、くそったれ!! 何やってんだオレ」

はあはあと肩を上下に揺らして、膝に手をついた遼平は大きく息をする。

「――好きでいていいよね」

はやる鼓動をそのままに、天を仰ぎ目を閉じる。

今の自分には志波のために用意できる背も胸も腕もない。
分かってる、そんなこと。

「オレの背があと二十センチ伸びたら、そのときは」

遼平は踵を返した。
アパートはもう少し先だった。

 
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