トライアングル・トライアル
□[3]このドキドキはもしかして
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六月も残すところ一週間ほど。
暦の上ではれっきとした梅雨なのだが、今年は余り雨が降らず、日増しに暑くなっていく日差しが間違いなく次の季節へと移ろいでいることを感じさせていた。
この日、遼平は三年になって二度目の考査、学期末試験を迎えた。
配られた答案用紙にまずは名前を書き込む。
問題用紙はその横で裏向きに置かれていた。
志波に家庭教師をしてもらうようになって一カ月、この三日間にその成果が問われるのだ。
窓から入ってくる風が開襟シャツの襟元をそよいでいくが、それを心地いいと思う余裕は遼平にはなかった。
期末試験最終日、最終科目。
チャイムの音が鳴り響く。
「そこまで。答案用紙集めて」
試験監督官の教師の声と同時に、出席番号順に座った一番後ろの席の生徒が立ち上がり、答案用紙を集めていく。
「終わった……」
遼平は、今やれることはやったのだ、という達成感のような気持ちでいっぱいだった。
ここ数日間、これまでになく机に向かいノートを広げて試験範囲をくまなく繰り返し勉強した。
志波が覚えろと言ったものはすべて暗記した。
じぶんでもよく覚えたものだと思う。
たとえこの瞬間から、忘れてしまったとしても、答案には書き込めたはずだ。
何より前回の中間テストと違い、手応えを感じていた。
教師が集めた答案用紙を脇に抱えて出て行く。
帰り支度にざわざわし出した教室で、皆感じているのは、あとはSHRだけと、もうすぐ訪れる開放感に他ならない。
「遼平、今日どうする?」
自分の席より三つ前の立松が振り返る。
「今日?」
今日、志波は来ない日だ。
遼平の試験日に合わせて、先週今週と変則に家庭教師の日を変えていた。
だから来週まで志波は来ない。
「なあなあ、試験終わった今日ぐらいは息抜きしようぜ? 駅裏のタコヤキ屋、今週一つおまけのサービスやってんだ」
「息抜きって、お前はいつもだろ?」
ひでえな、と口を尖らせる立松に苦笑を返し、遼平は再び席に着いた。
ガラリと引き戸が開き、担任教師がちょうど教室に入ってきたところだった。