トライアングル・トライアル

□[2]だってオトコのコだもの
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「遼平ー、最近お前つき合い悪いな」
「しょうがないだろー。受験生の宿命、一日おきに塾通いだからなー」

放課後、銘々帰り支度に忙しい教室で遼平は、小学校からのつき合いの立松に声をかけられる。
去年までは一緒に帰り、よく遊んだものだった。

「その上さらにカテキョ? お前さ、今からそんなんで来年の春までカラダ持つのか?」

相変わらずハードだな、と同情を見せる立松に、遼平は苦笑いする。

「いや夜はしっかり寝てるからね。何よりも睡眠が大事なんだってさ」

遼平の生活パターンを見直し、そう言ったのは志波だった。
ただ時間に任せて勉強すればいいものではないらしい。
ゲームも禁止はしなかった。
時間を決めてその間は集中してやる。そしてリラックスする。
いけないのはだらだらとやることだそうだ。

「なあ、そのカテキョ、美人なんだって?」
「何だよ、その美人っていうのは」

興味津々と言った顔で、おでこにニキビを繁殖させている立松が遼平を覗き込む。

「うちのお袋が言ってたんだよ。初見さんとこの家庭教師が、これがなかなかの美人で、って。お前んとこのお袋と会ったときに聞いたらしいぜ?」
「それをいうなら、イケメンだよ。うん、見目はいいぜ? オレが言うのもなんだけど、女子がみてるアイドル雑誌にでも載ってそうなくらい」

ただし、笑い上戸なんだよな、と注釈も忘れない。

「何だ、男かよ。男じゃなあ、家庭教師の先生とナニするって、ないわな」
「ないない」

立松が家庭教師という言葉から何を考えていたかなど、想像するのは容易だった。
そういう年頃なのだ、勉強だけが生活のすべてではない。

とはいえ、現実的にはそっち方面にはとんと縁がなく、グラビア見てしがない身を満足させるぐらいしかない。

「じゃあ、とっておき。悲しき受験生の潤いにこれを貸してやろう」
「何?」

そう言って立松がカバンから取り出したのは雑誌の切抜きだった。

「今週号のミカちゃん」

遼平たちの間で人気のグラビアアイドルの水着写真だった。
胸はそれほど大きくないが、お尻の可愛いアイドルだ。

遼平は受け取ってすぐに自分のカバンに入れた。
校則には勉学に不要なものは学校に持ち込まないという項目がある。
見つかれば没収は免れない。

「サンキュ。最近お袋のチェックが厳しくて、マンガすぐ処分されちゃうんだ」

少年マンガ雑誌には、過激なポーズこそないがこういうアイドル写真も掲載されている。
おかげで少年は人目を憚らず購入できる。

もっともインターネットを利用すれば、いくらでも遭遇できないことはないが、最近は何とかフィルターがセットされてしまい、やはり少年たちが無難に手が出せるのはこの手のものぐらいしかない。

「勉強ばかりじゃ息つまるもんな」
「だね」

灰色と称される受験生活の中で、ふわりと彩る桃色のひとときに思いを馳せ、二人は共犯者の笑みを浮かべた。
 
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