トライアングル・トライアル

□[1]イケメン家庭教師登場
1ページ/7ページ


五月も終わりの日曜日、日向の匂いのする布団の中で初見遼平(はつみりょうへい)は睡魔に任せて惰眠を貪っていた。
日はすでに高く上り、夏日を思わせる陽気だったが窓から入る風はさらりとしており、いっそうの夢心地だった。

中学三年生になって初めての学力考査は先週終わった。
一年二年とそこそこの成績で過ごしてきた遼平だったが、さすがに三年ともなると周囲の取り組みも違うのか、返却されてきた答案の、朱色で書き込まれた数字はどれも平均点を下回っていた。
ちょうどゲームの新作が先週発売されたのも災いした。

これでは志望する高校が危ないというのは、さすがに遼平でも分かる。
もっと勉強をしなければと思いはするが、それも明日からやるからと、あと少し、もう少しと、今は眠っていたかった。
身長の伸び率が去年を上回った少年の体は睡眠を要求していた。
むろん、眠いのは当然それが理由ではない。

だがヒステリーに響く母親の声で目蓋を開けるのを余儀なくされた。

「いつまで寝てるのっ! 休みだからといって、いつまでも寝てるんじゃありませんっ!!」
「何だよー。いいじゃんか、別に――」

ノックもなしに入ってきた母親に布団を捲られ、遼平は舌打ちしながら、もぞもぞと手足を縮める。

「何言ってるの!? そんなことはこれっ! これについてきちんと説明してからにしなさいっ」

強い口調で言われ、遼平は渋々母の手にある何やら文字の書かれた白い紙に目を遣る。

「うわあっ!」

それは答案用紙だった。
机の引き出し、雑然と何でも放り込んでおく二番目の奥にしまったはずの物だ。

「見たのかよっ。引き出しの中っ!」

いくら親でも勝手に引き出しを開けるなど信じられない。
遼平はむっとして言い返す。

「机の下に落ちていたの! これ、こないだの中間テストね? 他にもあるわよね。全部出しなさい」

入れた物でかさばっていたせいか、開け閉めしているうちに奥から落ちたらしい。

「い、いや、他って……。まだ全部返ってきてないし……」

母親の勢いに遼平は完全に目が覚め、ベッドの上で正座した。

「いいから早く。あるだけ出す!」
「はい……」

消え入りそうな小さな声で返事をすると、のそのそと勉強机に向かう。

「さっさとしなさいっ」
「は、はいっ」

数分後、遼平は家族会議よろしくリビングで六つの目を前に小さくなっていた。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ