主は冷たい屍となりて

□EVIDENCE.1 「ミッシツノコイ」
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知らなかった――。


こんなにも激しい思いを自分が抱えていたなんて。

思い出すまでもなく、私の脳裏には先ほどの君が映っている。

部屋に差し込む仄かな光に浮かび上がった姿は、君自身が光を放っているように見えた。

まともとは到底思えない状況で、私は君に見蕩れていた。

なぜもっと早くに、認めてしまわなかったのだろう。
長年無意識にその表層心理のはるか奥底にしまい続けたこの思いに――…。

そうだ。

それはとても自然に湧きあがってくる。
あれからも私はずっと君に恋をしていたのだ。

今ごろ気づいても遅いのかも知れない。
だが、このまま知らずにいたらどうなっていたのだろう。

いや、そんなことを考えても詮無きことだ。
今だからこそ素直に受け止められるのだ。
今日より前には決して認めることなど出来ずに、苛立ちをもって妻を責める言葉を吐いただろう。
これまで私はそうして来たのだから。
君への思い、胸の高鳴りに愛憎を交錯させて……。

しかし今は違う。
君への思いを認めた今は、この息苦しさにすら心地よく思える。

少なくとも、この胸におぞましくも醜い感情を抱えたままいかねばならなかったことに比べれば、はるかに幸せだ。

だから。

こんな状態ではあるが、知りえて良かったのだ。
君を思うだけでこうして笑うことが出来る自分がいたことを。

そして、これは罰なのだ。
自分がしたことへの。

過去を忘却という名で封印した私のへの罰。

だから。

これからすることは贖罪なのだ。
今の私が出来ること。

これは、君のためだ。

同時に、私のためだ。
君に恋している私のためなのだ。

だから君は。

何も思わなくていい。
君の罪は私がすべて請け負おう。

その愛の証に――――。


 

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