主は冷たい屍となりて
□THE TRUTH 「Re:密室の恋」
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男が倒れていた。
本来ならば、すぐさま人を呼び、しかる処置をすべきだろう。
だが、出来なかった。
する気もなかった。
このまま放置すれば、男に死は訪れるだろうか?
「誰……だ?」
不意にかけられた声に一瞬こわばる。
男は呻きながらその身を起こす。
出血はひどいが、死に至るほどではないようだ。
では予定を遂行するのみ。
「誰、だっ?」
再度、男が問う。
その目には誰が映っているのだろうか。
「久し…ぶり」
こんな返事をするとはまったく間が抜けていた。
だが男にはそれだけで良かったようだ。
「オ――……」
「とんでもないときに来てしまったよ」
男の返事はなかった。
息絶えたわけではない。
誰と対峙しているのか理解して、言葉を失っていた。
「それ、痛そうだね」
これも――。
何を言っているのだろう。
ここで自分が狼狽えていることに気づいた。
何てことだろう。
だが今更計画を無に帰する予定はない。
気を落ち着かせるため、軽く深呼吸をした。
「エド、こんなことを言うのは、とても不似合いの状況ではあるんだけど、どうしても言わなければならないことがあるんだ」
男からの返事はなかった。
突然の再会に思考するすべを奪われてしまったかのようだ。
男に近づき、目線を合わせるため膝を折る。
そのまま右手を伸ばし、男のこめかみから頬、その唇に指を這わせた。
「愛している――。この気持ちに変わりはない……」
そっと男に口づける。
男の目に涙が浮かぶのが見えた。
角度を変え、懐かしくもその味に、抱えてきた思いが溢れてくる。
「あ……わた…し……は」
「何も言わないで。君はあのとき、そうするより仕方なかった……」
唇を離す。
名残惜しそうに唾液が唇を濡らしている。
「でも……。それを受け入れることは――」
ナイフを利き腕に持ち、見つめたまま彼のからだに突きたてた。
「オー……!?」
ナイフを抜き、立ち上がる。
そして驚愕のまま見つめている男に笑みを浮かべた。
「――出来ないんだ……今も……ね」