主は冷たい屍となりて

□INSPECT.2 「秘密」
1ページ/2ページ




「関係者を集めてくれ。それとスタンレー夫人とは連絡がついたのか?」

バークレーがそう言ったと同時に玄関先が騒がしくなる。

「お帰りになられたようですね。オルタネット・スタンレー夫人が」

制服警官に付き添われて、夫人が現場に着いた。

「いったいどういうことなんですか」

初めて見るスタンレー夫人はどこか少女のようなアンバランスさを残した女性だった。

「お気の毒ですが、ご主人エドワード・スタンレー氏はお亡くなりになりました」
「ひっ」

短く悲鳴をあげた後、夫人はよろよろと背後にいた男の腕にもたれかかる。

その様子に、バークレーは同行してきた男の素性を訊く。

「失礼ですが、あなたは?」
「私はエヴァンズ・アーネスト。エドの、エドワード・スタンレーの友人です」
「スタンレー夫人とはどういうご関係で? お見受けしたところ、友人の妻という立場以上に親しくしておいでのようですが」

レイモンドが横から口を挟む。普段の彼らしくないストレートな言い方にバークレーは内心苦笑いをした。

掴んだ情報の中にそう言うのもあったのだろう。
レイモンドはそういう関係を好まない。

「失礼。先にオルタネットを休ませたいのですが。部屋に運んでも良いですか?」

エヴァンズは質問に答えず夫人を支えたまま言った。

「エヴァンズ…大丈夫よ」

幾分蒼ざめているが、スタンレー夫人は気丈にもそれを断る。

「主人を含めて…私たち、幼なじみだったんです」

それがレイモンドの質問の答えとバークレーは理解した。

「では、いくつかお尋ねしたいことがあるので、よろしいですか?」
「はい。では応接室の方で……」

夫人が先に立ち歩き出した。

「ご覧になりますか? スタンレー氏が亡くなられたこの部屋」

その背にレイモンドが声をかける。

一瞬立ち止まったが、夫人はそのままの姿勢で首を横に振る。
そしてまた歩き出した。

はかなげにも見えるスタンレー夫人の後姿は、幼なじみという男に支えられていた。



 

次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ