主は冷たい屍となりて
□EVIDENCE.3 「ミヒツノコイ」
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忘れられない。あいつの目。
驚愕に見開き、「なぜ!?」と訴えていた。
夜の闇にまぎれて、外出しているはずの妻が男を伴って目の前に現れた。
その右手にはナイフが握られていた。
もちろん、使うつもりなどなかった。
俺は、話し合おうと思って夜目をしのんで来たのだ。
二人の結婚は間違っていた。
それは初めから分かっていたさ。
だがあの時は、それが最善の策だったのだ。
確かに彼女はずっと俺に惚れていた。
あいつにも、相手までは知らないが他に好きなやつがいた。
あの頃、いくら彼女からその思いを告げられても、俺には選ぶことは出来なかった。
そうだ、俺にも好きなやつがいたんだよ。
他ならぬあいつだ。
そうさ、俺は親友だったあいつにそれ以上の気持ちを持っていたんだ。
こんな気持ち、誰にも言えず、ずっと押し殺してきた。あいつはあいつで、人に言えない恋路に悩んでいるようだったけどな。
あいつが彼女にプロポーズをしようと思っていると話を聞いたとき、俺は賛成した。
実りのない恋などあきらめて、普通に家庭を持つことを勧めた。
自分のことを棚にあげてな。
あいつが幸せになるならそれで良いんだ。
自分ではあいつを幸せにしてやることは出来ないのだから。
彼女と結婚して、子供を持って、家庭を築けば良い。
俺には出来ないことだったから。
あいつにとっても、誰への恋に悩んでいたかは知らないが、彼女と結婚することが救いに思えた。
だから。
俺は結婚を勧めた。
あいつの親友として。
幼なじみとして――。
だが夫婦の破綻はすぐに知った。
彼女は結婚後も何かと俺を頼ってきた。
彼女の口から赤裸々に語られる夫婦生活に俺は動揺した。
毎晩のように愛し合うが、形ばかりで心がないと彼女は訴えた。
あいつは毎晩彼女を抱く――。
俺が狂った瞬間だったのかもしれない……。