君というひかり

□君というひかり
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『先輩――…』




ああ、お前か。

語尾が消えてしまいそうに弱く。
でも確かにお前の声だ。



『先輩……先輩……』



何度も繰り返し呼ばれる。

もう少し、眠っていたい。

でもそろそろ起きたほうが良いかな――。




君というひかり




二人が出会ったのは、俺が高三でお前が高一の春。
所属していた部活、写真部でだった。

一年の勧誘に忙しいほかの部員を尻目に、暗室で一人現像をしていたとき、ドアが叩かれた。
外に出てみれば、お前が立っていた。

赤いセーフライトの仄かな光源に慣れた目には外の世界は眩しくて、思わず眉根を寄せてしまい。

よく言われた。
このときの俺はかなり人相が良くないらしい。

実はそれで入部希望の新入生を先日も逃していた。

しまったと思ったときには遅く、目の前にいた小柄な少年は目を見開き驚いていた。

だがそれが一瞬にして笑みに変わった。

「入部希望です」

黒い大きな瞳がとても印象的で、真っ直ぐ向けられた笑顔に正直見とれてしまった。

俺はもっぱら遠景や植物などの静物を撮るのだが、初めて人物を撮りたいとそのとき思った。

「新入生か。用紙に必要事項書き込んでくれ」

入部希望の用紙を手渡しながら、覚えた感情を悟られたくなくて、素っ気無く返事をしてしまった。

だが、お前は笑顔を崩すことなくぴょこんと頭を下げる。

「俺、写真初めてなんすけどよろしくお願いします」

デジカメやカメラ付き携帯で写真を撮るということが当たり前なったせいか、フィルムを使い、印画紙に焼き付けるという手法は面倒に思うようで、写真部の部員は年々減っていた。

せっかくの入部希望者に取る態度ではなかったと反省を込めて俺は良き先輩を意識した。

「初めてか。カメラは持ってるかな?」

お前はちょっと困った顔をした。

「カメラってデジカメならあるけど…それじゃダメっすよね」
「そうだな。現像の楽しさを思うならフィルムを使うカメラがあればいうことないが……大丈夫だ。部の備品で一つあるし、中古で良ければ俺のを貸してやるよ」

今会ったばかりの相手に自分のカメラを貸すなどと、言ってしまった自分に驚いた。

俺はバイトをして貯めた金で欲しかった一眼レフを手に入れたばかりで、それまで使っていたカメラも部に持ってきていた。

いくら新しいものを手に入れたとはいえ、以前のものにも愛着があるのに。

「そうですか。やった」

でもそのとき本当に嬉しそうな顔をしたお前を見て、それも良いかと思った。

何といっても、お前の笑顔が俺をまた嬉しくさせたのだから。



 
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