災い転じて恋をして

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 午前にアパートの大家のもとを訪れた玉木は、昼過ぎに出社した。朝、樫原に会社には連絡しておくからと言われ、そうさせてもらったのだ。
「玉木」
「ああ、温田(ぬくた)さん」
 営業三課に姿を見せた玉木に、同僚の温田がすぐに声をかけてきた。
 五年上の先輩になる温田は、名は体を現すというとおり三課一、和ませる雰囲気があった。それが玉木の顔を見た途端、気遣わしげに表情を曇らせる。
「昨日、事故のニュース見て心配していたんだ。どう見てもお前のところだったから」
 顔を見せれば聞かれるだろうと思っていた。すぐに周りに人が集まってくる。
「そうなんですよ。ホント、出張から帰ったら、アパートがなくなってたんです」
 変な気遣いは不要と、できるだけ明るい声で答える。
「ニュースではガス漏れが原因だっていってたけど」
「そうらしいです。何か外付けの給湯器の配管にヒビがいってたという話で。建物も古いし、大家さん、取替え工事をしようと思っていたところだったと言ってました」
 考えてみれば、爆発が起きたのは自分の部屋の配管だったのかもしれなかったのだ。
 話を聞きに行ったとき、申し訳なさそうに頭を下げた年老いた大家が思い出される。
 今回のことで保険が下りることになったが、支払われるのはまだ先になるとも大家に言われた。
「災難だったな。俺にできることがあったら何でも言ってくれよ」
「ありがとうございます」
 今の玉木には嬉しい言葉だった。
 作倉町のアパートにも寄り、改めて事故の凄さを目の当たりにした。爆発に加えて二次被害の火事で、アパートはもう取り壊すしかないのが素人目にも分かった。
 自分の荷物が何か残っていないかと、現場を仕切っていた消防署の人に断り、中に入らせてもらったが、消火の放水によって残っていた物も、そのほとんどが使い物にならなくなっていた。家財道具、ローンで買ったばかりのパソコンも。二年間暮らした部屋のすべてを一度に失った。
 この身が無事だったことに感謝すべきなのだとは思う。だが何にしても当座の生活をどうするのかが問題だった。まずは今夜から寝るところを考えないといけない。地元を離れているため、こっちには頼れる友人もいない。
「寝るところはどうするんだ? うちに来るか? 子供が多くてうるさいかもしれんが」
 温田の家は幼稚園に上ったばかりの子供と去年生まれた双子がいると聞いていた。そんな子育てで大変な家庭に、泊めて欲しいとはとても言えなかった。
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