浪漫奇譚
□[8]愛してる
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めまぐるしい一日が終わった。
夏輝は手にあった輝石をそれぞれの持ち主に返した。
シアネスがいうようにすべてを集めてアムリスの覇王になろうなどとは思わない。
なりたいとも思わなかった。
自分はあの日輝石に背を向けたサフィーラの悲しみに濡れた瞳を知っている。
あれから、生徒たちは何ごともなかったように目を覚ました。
まるで止まっていた時間が動き出したようだった。
多少の時間の経過があったものの、それを疑問に思う者はなく、学校にいた人間からあの時間の記憶だけが消失していた。
いつものように日が暮れる。
夏輝も普段通りに教師という仕事を終え、放課後帰途についた。
通勤で慣れたバスを降り、住宅街に入ってしばらく歩く。
角を曲がったところで、以前ここでバイクに乗った天宮司に会ったと思い出す。
「つまり…そういうことだったんだな」
あのとき、天宮司はわざわざ自分を迎えに来たのだ。
思い返せば、いろいろ符合してくる。
そして公園。
きっといる、と確信していた。
それは間違いなく事実。
「何やってんだ、ここで」
「あなたを待っていたに決まってるでしょ」
天宮司はルビアスと会った小路横のベンチに腰かけていた。
夏輝もその横に座る。
横目でちらっと天宮司の表情を確かめると視線を正面に戻した。
「暇なヤツだな」
しかめっ面を作り、わざとぶっきら棒に言った。
会えた嬉しさに、ドキドキしている心のうちを知られるのが気恥ずかしかった。
「……ルビアスが心配で、いつもここまで来ていた」
天宮司が、小路に視線を投げたままぽつりと言った。
不本意とはいえ、輝石をめぐる戦いに夏輝を巻き込んでしまったサファイラスは、戦闘のあと無事に戻ったかどうか、見届けていたと話した。
少女戦士(サフィーラ)の姿のままでは怪しまれると思い、変身を解き、天宮司の姿となって。
「まったく何もかも承知でお前は。俺一人バカみたいじゃないか。なんでルビアスのときだと態度違ったんだよ。俺だって、知ってたわけだろ?」
天宮司にキスされて一喜一憂し、困惑して。
「ルビアスは可愛いですから。守ってやらなくちゃって。でも火嶋先生…夏輝は……」
自分より大人で。
たとえ、年の割りに直情で考えるより行動が先でも。
子ども扱いされたくなくて目一杯虚勢を張って見せていたと言った。
「それに俺だってあなたの気持ちはまでは知りませんでしたよ。でも…震えているルビアス見たら…歯止め効かなくなっちゃって……抵抗しなかったし…最後までさせてくれなかったけど、つい……」
はじめの勢いを失い、徐々に言葉尻を濁し、声が小さくなった。
天宮司は頬を染め、バツ悪そうに俯く。
「ばかやろ。わけ分からなくて固まってたんだよ。お前の気持ちが分かんないし、学校とじゃ別人みたいだったし」
夏輝は、この少年が愛しい、と思った。