浪漫奇譚

□[7]そして最後のときはくる
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[7]


 
「先生、その字、違いますよー」
「あ、ああ、すまん」

黒板に書いた字の間違いを生徒から指摘され、夏輝は慌てて訂正する。

「先生、もうすぐクリスマスだからってボケてんじゃねーよ」
「クリスマス来ても彼女いないんじゃ寂しいだろうけど」

からかわれても反論する気になれなかった。
こんなことじゃいけないと自分を叱咤するが、教頭から聞かされた話は夏輝を落ち込ませていた。

なぜ、学校を辞めるなどと。
やはり自分が拒絶したのが原因なのか。
しかしあのとき自分に何ができただろう。
自分は教師だ。
同じ気持ちを抱いているからといって、生徒である天宮司に、流されるわけにはいかないのだ。
天宮司の将来を思えばこそ。

「会わなくちゃ……」

ぽつり、と言葉が出る。

会って話をしなければ。
このままではいけない――。

「先生、あれっ!!」

そのとき、生徒の一人が窓の外を見て叫んだ。

「どうした?」

生徒の形相に夏輝はただならぬものを感じた。

他の生徒も釣られるようにして窓の外を見る。

「あれは!」

海東ハルカだ。
ハルカが誰かに追われながら走ってくる。
制服は引き裂かれ、足元はふらついている。

「あれって何? 変質者?」

生徒の声に夏輝は、ハルカの背後に迫る者を凝視しした。
白のインバネスを翻して――。

シアネス!!

まさかこんな……。

夏輝は息を呑み、左手の甲を見た。
しかし、いつもなら感知するざわめきはない。

だが、今、目の前で起きていることが現実だ。
窓を開け、夏輝は身を乗り出す。

シアネスが何か手にしていることに気づく。
白く輝く石、アルビスの輝石だった。

ハルカが足をもつれさせ倒れた。
倒れざま、何かを探すように見上げたハルカと目が合う。



ルビアス、逃げて――!!



声は届かなかったが、確かにハルカは自分を見てそう言った。

なぜハルカが。

ハルカの視線の先に気づいたシアネスが、酷薄そうに自分を見ていた。

他の教室からも覗く顔が見えた。
このままでは騒ぎが大きくなる。

夏輝は教室から飛び出そうとしたとき、また生徒の声が上がる。

「あ、笹野先生だ!」

倒れたハルカに走っていく笹野の姿が見えた。

だがそのときシアネスの姿が消えた。

いや、目の前に現れた。

 
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