浪漫奇譚
□[2]恋は突然、災難のように
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「今から行けば、二時間目には間に合うな」
夏輝は自宅マンションを出た。
戦いに明け暮れる生活となったとはいえ、普段は担任するクラスこそ持たなかったが、瑞陵高校に勤務する教師だ。
社会人として、何よりも火嶋夏輝としての生活がある。
例えこの身はルビアスという少女戦士に変身しようとも、戦いのないときは火嶋夏輝だ。
「まったく、アムリスのやつらも毎回毎回……」
少女になってしまう自分の体に覚える違和感は並大抵のものではない。
夏輝は生まれて二十四年間男として生きてきた。
少女になったからといって、即順応出来るわけがない。
トランスセクシュアル(性同一性障害)の傾向はまったくないのだ。
トランスヴェスタイト(異性着者)でもない。
男である以上、異性…女性の肉体に興味がないとは言わない。
変身後の丸みのある肢体を目の当たりにしたとき、目眩を起こした。
膨らんだ胸の質量に戸惑い、触れればつんと甘酸っぱい痺れが広がる。
初めての経験だった。
男の証、自身を確認したときはどうしようもない消失感を覚えた。
まったくもって外見は女性。
それも少女。
変身を解き、本来の自分の体に戻ったときは、安堵に思わず涙すら流した。
体の変化を今は深く考えないように努めている。
触れでもして、ダイレクトに伝わる経験したことのない熱感に溺れそうで怖かった。
夏輝は晴れ渡った秋の空を見上げた。
「何も朝っぱら来るこたぁ、ねえじゃん。教頭に何て言おう」
無断で遅刻。
これでは生徒を指導しなくてはならない夏輝の立場がない。
ただでさえ、普段から遅刻が多いのだ。
幸い、といおうか、夏輝の住むマンションから瑞陵校はさほど離れていない。
バスで十分程度の距離だ。
とはいえ、駅前の混乱を思えばバスが来るとは思えず、自力で行くしかない。
なら歩いて三十分ほどか。
「先生!!」
角を曲がったところで、フルフェイスメットでバイクに跨った少年に声をかけられた。
少年の服装に覚えがある。
瑞陵の生徒だった。
「天宮司(てんぐうじ)!」
少年がメットを外し、その下から現れたのは二学期から二年に編入してきた天宮司翔(しょう)。
整った顔立ちもそのスタイルの良さも、また学生らしくその勉学においても、天宮司は目立つ生徒だった。
一年の現国を担当している夏輝にとって二年の天宮司との接点はないといっていい。
しかし天宮司はどうしてなのか、夏輝にことあるごとに話しかけてきていた。