浪漫奇譚

□[1]オレが美少女戦士?
1ページ/9ページ


[1]


大地が揺らぎ、激しい爆音がとどろく。

朝のラッシュがそろそろ落ち着き出した頃だった。

突然襲った怪事に、不幸にも居合わせてしまった人々が逃げ惑っていた。
ステーションビルの壁に亀裂が走り、コンクリートの塊が道行く人々の頭上に崩れ落ちる。

運悪く構内に入ってきた列車が、ブレーキが間に合わず空(くう)を切る閃光に横転した。

「やりたいほーだいかよっ」

もうもうと上がる砂埃の中に人影があった。

軽く呼吸を整えると、腕を突き出し体の前で組む。
そのまま今度は左腕を曲げた状態で垂直に起こし、拳を作った。
その左の手首を右手で掴むと左手の甲に赤く輝く石、輝石が出現する。

「ミュ――、テイション!!」

気合の入った声と同時に赤い石から光が溢れ、人影を包み込む。

光の中で変化(へんげ)が起きた。
取り巻いている光の中で人影はその姿を変えていった。
背丈が縮み、全体に華奢な骨格に。

いったいどんな人物なのか、包む光が強く傍目には分からなかった。
ただシルエットが透けて見えるだけだ。

そして光が消え中から現れたのは、膨らんだ胸、しなやかに伸びた肢体。
桜色した頬に、意志の強そうな薄茶の瞳。
髪はショートではつらつとした印象の少女だった。
年は十六、七か。

取り巻いていた光と同色の赤を基調にした少女のコスチュームは、動きやすそうなミニスカートにブーツ、胸の膨らみを保護するブレスト・アーマーを着け、両手は白のグローブを嵌めていた。
その左手の甲には先ほど出現した輝石が納まっている。
明らかに戦闘を意識したバトルギア・スーツだ。

「よっしゃ、完了!」

さっきまでの声とは明らかに違う、鈴が転がるような声音で、少女は自分の体を確認する。
そしてごちる。

「何回やっても慣れないよな、これ」

ほとんど同時に背後から鋭く声がかかった。

「ルビアス! 今まで何やっていたんですか!!」

ルビアス、と呼ばれた赤いコスチュームの少女は首を竦め振り返った。
そこには少女――ルビアスと同じような格好をした少女がいた。

こちらは青を基調にして、自分の背ほどあるロングボウを所持していた。
左手の甲には青い輝石がある。
アッシュグレイのセミロングの髪をなびかせ、サファイアを思わせる澄んだ瞳が印象的だ。
背丈はルビアスより幾分高い。

ルビアスはまたか、という表情を一瞬浮かべたが、すぐ言い返す。
少女、という姿に似つかわしくないぞんざいな口調だ。

「しょうがないだろ。駅って反対方向なんだから。これでも急いで来たんだぞ」
 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ