アニキの恋人

□アニキの恋人3
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「あのさ、室岡さん。室岡さんの学校ってさ、来週文化祭あるんだよね」

夏休み明けの実力テストも終わり、次の中間テストまで一息つけそうな九月の半ば。
オレ、三上忠敬は指示された数学の問題を解きながら室岡さんに尋ねた。

中学三年のオレは、いわずと知れた受験生だ。
そのオレの勉強をみてくれているのがこの室岡さん。

普通家庭教師なら大学生が多いと思うけど、室岡さんは、県立慶南高校の二年で、成績は常に学年トップだという。

なぜにそんな人がオレの家庭教師をしてくれるようになったかといえば、二つ上のアニキ、崇史のクラスメートである室岡さんがウチに遊びに来ていたとき、母親が頼み込んだからだ。

どうして母親がそういうことをしたかというと。

成績のかんばしくない上に、受験生なのに一向に勉強をしないオレに、業を煮やしてというか、アニキから室岡さんのことを聞いてというか。

アニキだって大して勉強ができるほうじゃないのに、一学期の成績を上げてくれちゃってさ。
何で上がったのかと聞けばクラスメートに勉強をみてもらったって言うし。
それが室岡さんだったわけで。

そういう話があって、夏休みの終わりあたりからオレの勉強もみてくれるようになった。

そのおかげ、というのか、やっぱりおかげだよな。
新学期早々の実力テストは、これまでよりも順位を上げることができたんだし。

だって解りやすいんだ室岡さんの教え方。
授業じゃ解んなかったことが、室岡さんにみてもらうとすっと頭に入ってくる。
何が違うんだろうね。
学校の先生は教えることが本職のはずなのに。

「うん、そうだけど?」

おっと、そうだった。
文化祭。

室岡さんとアニキが通う慶南高校の文化祭が来週あるというのは、慶南を志望している友人からの情報だ。

オレは問題集から顔を上げて、上目遣いで室岡さんを見る。

「あのさ、それで、お願いがあるんだけど」

こっからが本番。
その友人から文化祭の招待チケットをゲットするように頼まれていたのだ。

他の学校はどうか知らないけど県立慶南高校の文化祭に行くには、学校側が発行する招待チケットが必要なのだ。
それを持っているのは在校生。
ツテがないときは学校に直接申し込まなくてはいけないという。

「何? もしかして招待券?」

少し小首を傾げて室岡さんが答える。
さすがに頭のいい人は察しが速い。
まあ、こんなふうに話を持ち出せば、たいてい分かるか。
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