フレンズ
□エピローグ
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やっと心を通わせたばかりの恋人たちをからかうように、セックスの役割を聞きたがる典之を睨めつける。
「頼むからもう勘弁してくれって」
「そんなに嫌がるなよ。俺はこれでも一応だけど、おまえのこと吹っ切り中なんだから」
行動が矛盾していると突っ込みたい雅人だったが、それで気が済むのなら嫌がらせぐらいは甘んじようかと思う。
それだけ彼を傷つけたのも事実。
「ばーか。俺の嫌がらせ、真面目に取るなよ。俺としちゃ喜んでいるんだから。悔しいけど、おまえを変えたのは三上なんだし」
人に本心を見せることのない雅人が垣間見せる感情の揺らぎ。
それを見つけては典之は喜ぶ。
窓から外を見れば、目に入ったのはやはり陸上部の練習風景。
その身長のせいで三上はひときわ目立っている。
「良かったな、室岡。あいつもおんなし気持ちでさ」
「橋倉……」
並んで見下ろしていたのを典之が雅人の身体を半回転させた。
そして肩口に顔を埋めるようにして背中に手が回される。
「な、キスしない? おまえとつき合ってきたとき、まともにキスしたことなかったじゃん」
言うと、顔を近づける。
「悪いけど、それは出来ない」
以前はどうあれ友達と意識した典之とは出来ない。
「…あと三十秒」
「橋倉?」
「あと…二十……、十、九、八、七……」
秒読みを始めた典之に雅人は首を傾げる。
カウント・ゼロを言う前に、生徒会室のドアが大きな音を立てて開き、目の前に肩で息した三上が現れる。
「三上!?」
いきなりの登場に雅人は驚愕のまま固まってしまう。
「一分二十六秒…てとこか。ち、あともうちょいだったつーのに。さすがに速いな陸上部」
「油断もスキもねぇな、ったく。室岡ももっと自覚してくれよ」
言いながら部屋に入ってきた三上に、典之から引き離すように腕を引っ張られる。
「いや、自覚と言われても……」
なぜ三上がここにいるのか訳が分からないまま言葉を濁す。
「前はどうでも、今室岡はオレのなの。手出しすんなよなっ!!」
「ふん」と鼻息荒く言い放つ三上に典之は苦笑している。
「手塩にかけて育てたムスコをあとから来たヨメに取られたシュウトメのような心境だわ」
三上に引きずられるように部屋から出る雅人に、典之の呟きが聞こえる。
ふざけた言い草なのに、なぜだか切なくなった。