フレンズ

□---11
3ページ/6ページ

雅人には昨日川原で三上の隣にいた少女の姿を簡単に思い出すことが出来た。

「三上は好きな人がいるって断ったらしいんだけど、納得出来ないとかで、彼女が泣き出して?」
「だったら好きな人の名前を教えて欲しいって言ったらしいんだ」

とくん、と雅人の鼓動が大きくなった。

「そこに川野が坂巻たちとたまたま通りかかっちゃったワケ」
「――三上は…その……好きな人の名前言ったのか?」

昨夜自分に口づけ、好きだと言った三上。

もしかしたらこの心臓の音が周りに聞こえてやしないかと気にしながらも、雅人は問うた。

「えっと、何て言ったっけ?」
「ああ、アサミだ。アサミちゃん」
「あ…さ…み……」

その名に、雅人の鼓動はさらに速く、脈打つ音は大きくなった。

「コクられて振っちゃうなんて、もったいねえって思うけどさ」
「だけど好きな人いるんじゃしゃーねぇべ? それももう十年になるってんだから」
「だわな。十年前つったら小坊じゃん。三上がそんなに一途だとは思わなかった」
「でもあいつなら分かる気もするし」
「室岡? どうしたんだよ」

俯き、急に黙ってしまった雅人に級友たちが不思議そうに視線を交わす。

「あ、いや…何でもない。三上…は、好きな人の名…を『あさみ』って……言ったんだな。十年もずっと……」
「う、うん。オレらもそこにいたし……」

雅人は震えてしまう自分の声をどうしようも出来なかった。
膝から力が抜け、その場に座り込む。
汗が背中を伝い、手足がすっと冷えていく。

「あさみ」という名がのしかかる。
忘れようと心の奥底に沈めた名だった。
一気に十年もの歳月を遡り、幼い日の記憶を呼び覚ます。

「委員長また貧血? 大丈夫か?」
「大丈夫だよ。何でもない」

気遣う級友に答えながらも、それでも立ち上がることは出来なかった。

「おい」

その声に立っていた三人はいっせいに振り返り、雅人は力なく顔を上げた。

「おまえらまた何か――!!」
「――何もしてないって!」
「そうそう。たいしたこと話してないって。昨日おまえがC組の子にコクらたっていう話をしてただけで」

三上の目に剣呑さが増した。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ