フレンズ

□---10
5ページ/6ページ

さっき逃げ出したのは、過去の話が話題だったからではない。
三上が扉を開けたからだ。目の前に三上がいたから。

「そんな話過去のことだろ? 今のあんたは違う。それにオレの知っているあんたも違うんだ」
「違うって? おまえが俺のなにを知っていると言うんだ。じゃ、こういうのはどうだ? 女経験豊かな委員長は実はおと……」
「室岡っ!!」

怖いほど真剣な眼差しだった。

雅人は自棄になって口にしようとした言葉を飲み込む。

「昼間、あんたは川野と一緒にいた。それも腕を組んで。それに花火のあと! あんたはいなくなった。副会長と一緒だ」
「三上……?」

これが三上なのか?
いつもの大らかな雰囲気はどこにもない。
肉食獣すら思わせる。

「――オレもそろそろ限界なんだ」
「どういう…いみ……?」

目の前に三上の顔があった。
こんな近くて見るのは初めてで、意外に睫毛が長いんだと、どうでもいいようなことを思った。

「こういう意味だ――…」

そして唇に、思いもかけない感触が下りてきた―…。

自分の身に何が起きているのか理解するのに暫しの時間がかかった。
触れた唇はそれ以上深く交じることなく離れる。

「どう…し…て……」
「――謝らないからな。あんたがそうさせるんだ。ずっと探して、見つけて、やっと近くにいられると思ったら、あんたは他のヤツばかりと一緒にいる」

どこか拗ねたように言い放った三上は、自分に…男に、キスするということがどういうことなのか自覚はあるのか。
だが多分、そんなことは大した問題ではないのだ。

「探してって……?」

月明かりに照らされて、見えた級友は苦い表情をしていた。

自分は三上の何を見てきたのだ。
中学のときの覚えがなくとも、それでも同じクラスになって四ヵ月。
自分は三上に惹かれ存在を意識しているというのに。

「――オレ、中三のときにあの中学に転校してきたんだ。それも二学期の終わり。みんな受験で他人のことなど構っちゃいられないってときに。だからあんたが中学んときのオレを覚えていなくても仕方がないっちゃあ仕方がない。……クラス違ったし」
「そんな時期に転校してきたおまえに親切に教えてくれるヒマなやつがいたと言うことか」
「自分を傷つける言い方は止めろよ。オレから聞いたんだ。…室岡のこと……知りたかったから」

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ