フレンズ
□---10
4ページ/6ページ
三上の手が右ふくらはぎを撫でていた。
ジーンズの布越しとはいえ、大きな手の温もりが伝わる。
「あ、もう、いい。痛く、ない、から」
「遠慮するなって。強張った筋肉、ほぐしておいたほうがいいから」
「三上……」
どれくらいそうしていたのだろう。
揉まれる感触がとても気持ち良かった。
「あ、ここすりむいてる」
「え?」
「肘んところ。さっき転んだときやったんだな」
言うと、三上が雅人の左腕の肘の辺りをつかんだ。
薄暗さの中光源を求めて、いつの間にかまた顔を出した月に向ける。
「いたっ」
「あ、悪い。痛むのか?」
「違う、おまえが腕を引っ張るからだ――み、三上!!」
「ん?」
自分の腕が人に舐められるのは初めてだった。
「かすり傷だもん、舐めときゃ治るだろ?」
「ひゃっあ…、やめろ、舐めるなこの――」
まったく、犬そのものだ。
足を治してくれたときは、陸上やっているだけあって、そういう知識もあるんだと感心した。
だが傷を舐めて治すなど、動物そのもの――…。
「――な、室岡。そろそろ戻ろう。みんな心配してるし」
何の前触れもなく、唐突に切り出される。
「いやだ」
「やっぱり聞いてたんだな。悪かったよ。あいつらも悪気はないと思うんだ。ただ、女経験しているあんたが羨ましいって話だったんだ」
「そうでもないんじゃない? 自分の姉までやってるようなやつをさ」
自嘲する。
これじゃ外で聞いていました、と言っているようなものだ。
「立てよ、歩けないなら負ぶってやるから」
だが三上はそれに対して何も言わなかった。
「バカにするな。戻りたきゃ、おまえ一人戻れよ。俺に構うな」
宥めるような言い方に苛立ちを感じてしまう。
「室岡」
立たせようと、足を気遣い肩に回された三上の手を再び払い除ける。
「おまえも全部知ってたんだな。同じ中学だったんだから、知ってて当たり前か。さぞかしおかしかっただろ? 真面目が取り得のような委員長が実は乱れてて、それを取り繕うように生活してるなんて」
八つ当たりだ。
それ以外何者でもない。