フレンズ

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三上の手が右ふくらはぎを撫でていた。
ジーンズの布越しとはいえ、大きな手の温もりが伝わる。

「あ、もう、いい。痛く、ない、から」
「遠慮するなって。強張った筋肉、ほぐしておいたほうがいいから」
「三上……」

どれくらいそうしていたのだろう。
揉まれる感触がとても気持ち良かった。

「あ、ここすりむいてる」
「え?」
「肘んところ。さっき転んだときやったんだな」

言うと、三上が雅人の左腕の肘の辺りをつかんだ。
薄暗さの中光源を求めて、いつの間にかまた顔を出した月に向ける。

「いたっ」
「あ、悪い。痛むのか?」
「違う、おまえが腕を引っ張るからだ――み、三上!!」
「ん?」

自分の腕が人に舐められるのは初めてだった。

「かすり傷だもん、舐めときゃ治るだろ?」
「ひゃっあ…、やめろ、舐めるなこの――」

まったく、犬そのものだ。
足を治してくれたときは、陸上やっているだけあって、そういう知識もあるんだと感心した。
だが傷を舐めて治すなど、動物そのもの――…。

「――な、室岡。そろそろ戻ろう。みんな心配してるし」

何の前触れもなく、唐突に切り出される。

「いやだ」
「やっぱり聞いてたんだな。悪かったよ。あいつらも悪気はないと思うんだ。ただ、女経験しているあんたが羨ましいって話だったんだ」
「そうでもないんじゃない? 自分の姉までやってるようなやつをさ」

自嘲する。
これじゃ外で聞いていました、と言っているようなものだ。

「立てよ、歩けないなら負ぶってやるから」

だが三上はそれに対して何も言わなかった。

「バカにするな。戻りたきゃ、おまえ一人戻れよ。俺に構うな」

宥めるような言い方に苛立ちを感じてしまう。

「室岡」

立たせようと、足を気遣い肩に回された三上の手を再び払い除ける。

「おまえも全部知ってたんだな。同じ中学だったんだから、知ってて当たり前か。さぞかしおかしかっただろ? 真面目が取り得のような委員長が実は乱れてて、それを取り繕うように生活してるなんて」

八つ当たりだ。
それ以外何者でもない。

 
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