フレンズ

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「室岡っ!!」

名を呼ばれる。だけど、こんなときどう返事が出来るというのだ。

「待てって――!!」

臆病者、意気地なしと蔑めばいい。
すべては自分が撒いた種のくせに逃げ出してしまうのだから。
逃げてもどうしようもないのに。

なのに――。

どこへ行けばいいのだ。
行く先などない。

「待てよ、室岡」

三上が追いかけてきた。
走ったところで、陸上部のホープに敵うはずもない。
それでも止まれない。

「おいっ!!」

腕を掴まれた。
それを振り払う。

「待てよ、待つんだ室岡」

どこを走っているのだろう。
上っているのか、下りているのか、慣れない道を闇雲に走る。
星明りだけでは、辺りはよく見えない。

いきなり足に違和感を覚えた。
それが激痛となるのは一瞬だった。

「くっ――」

痛みに呻きそのまま倒れ込む。

「おい、しっかりしろ。今度はどうしたんだよ」

追ってきた三上に抱き起こされる。

「室岡?」

苦痛に顔を歪め、問われても答えることが出来ない。
ただ、耐え難く痛む足を自分の手で抱き込むだけだ。

「足? ああ」

三上の手が硬く強張った右足のふくらはぎを撫でた。

「ちょいと痛いけど我慢しろよ」

言うなり、三上は足を伸ばさせ、右足のつま先を手前に引く。
激しい痛みの中めりめりと筋が伸びる音が聞こえそうだった。

「もうちょっとだ」
「んなの、くっ――」

何とか息を吐き、奥歯を噛みながら耐える。

あまりにも情けなさ過ぎた。
逃げ出した末に、足が攣るとは。

しばらくしてようやく痛みが治まる。

「多分、もう大丈夫だろ」

あれほどの痛みが嘘のように引いていた。
足に添えられた手を振り払い、立ち上がろうとするが、走った痛みによろけ、再び座り込む。

「足が攣ったくらいで――っ」

情けなさに追い討ちがかかる。

「バカにしないほうがいいぞ。攣るって筋肉が痙攣起こしたんだから、痛みはなくなってもしばらく痺れた感じ残るから」
「そういうものか?」
「そういうもの。第一、あんた運動不足だろ。いきなり走っちゃ身体のほうがびっくりするさ」

目の前に三上の頭があった。
いつも見上げてばかりの級友の頭を見るのは初めてのような気がする。

 
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