フレンズ
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今夜の宿となっているバンガローの前まで来ると中からぼそぼそと話し声が聞こえた。
思いのほか、木造のこの壁は薄いらしい。
当然、同室となった級友がいるわけだから、話し声が聞こえても何ら不思議はないことで、別段気にもせず戸口に手をかける。
しかし、話の内容にもよるのだった。
「――委員長ってどこ行ったんだ?」
「室岡がいなくなるなんて珍しいよな」
自分が話題にされている中に入っていくには少しばかりの勇気がいる。
手をかけ扉を開けるだけのことに、どうしても躊躇いを覚える。
そして躊躇っていたのを後悔する。
さっさと入ればよかったのだ。
気まずくとも。
「室岡ってけっこー遊んでいたって聞くぜ? 中坊んころ」
「えー、そーなのか? 想像つかねーよ。なぁ三上、おまえ一緒の中学だったんだろ? どうなんだそこんところ――」
耳に聞こえた名に雅人は強張った。
「おい、答えろよ。室岡って今じゃ真面目一本やりな委員長だけどさ、中坊んときはいろいろ食っちゃってたて聞いたぜ?」
「食うって何さ?」
「オ・ン・ナ」
「マジ? えーもう経験者なの? それって中学んときの話だろ? すっげー」
これが現実か。
クラスメートを普段とは違うシチュエーションの中で身近に感じてしまったなど、錯覚以外の何ものでもなかったことだ。
たかが過去の話と、気楽に構えて中に入れるのならそうしたい。
こんな話、どうということはないのだ。
しかし、さらに雅人は凍りつく。
「でも委員長、すごいのは自分のねーちゃん食っちゃ――」
最後まで聞こえなかった。
壁を叩きつける激しい音にかき消された。
その後の一瞬の静寂。
続けて聞こえる声。
「な、何だよ三上。おっかない顔して。う…ウワサだろ? ウワサ」
みんな知っているのだ。
知っていて陰で話をしている。
そして――三上は知っている。
そういうことだ。
この場を去りたい。
そう思った。
ここに居たくない。
逃げ出したい。
なぜ、もっと早く扉を開けなかったのだ。
話が出る前に――。
さらに自分の間の悪さを呪った。
手をかけたままの扉が中から開いた。
目の前に立っていたのは見上げなければ目線を合わすことが出来ない背の高い級友。
だから……。
バンガローに背を向けた。