フレンズ
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一瞬何を言われたのか分からなかった。
意味を理解すれば、おかしくなった。
でも同じことを言ったはずの典之とは違う。
「あ…あはは……は――」
雅人は返事の代わりに笑い声を上げた。
本当に久しぶりに笑った。
――そして泣きたくなる。
『室岡? オレ、また何かへマした!?』
笑い出した雅人に、三上の戸惑う声が伝わってきた。
梅雨だというのに、雨の気配はいっこうになく、夏日といっても差し障りがないほどの陽光が通学途中の生徒を照らしつけていた。
朝からこの様子では日中はどこまで気温が上がるのか。
雅人は額に滲んだ汗を手の甲で拭いながら、高校近くのバス停から学校目指して歩いていた。
「室岡〜っ!」
かなり後ろから、張りのある声が雅人を呼んだ。
「み…かみ……」
振り返れば三上が片手をぐるぐる回しながら、歩いている生徒の間をぬって、自転車で走ってくるのが見えた。
その様子はまるで自転車に乗っているとはいえ、尻尾を振りながらかけて来る大型犬のようだ。
軽く手を挙げ三上に応えると、正面を向き直りまた歩き出す。
「おい、室岡ー、待てって――」
通学中、こんな往来で小学生でもあるまいし大声で名前を呼ばれるなど、初めてに近い経験だった。
雅人は、気恥ずかしさから自然足が速くなる。だが相手は自転車で、先ほどよりもスピードを上げ、雅人めがけて走ってくる。
雅人の横まで来ると三上は派手にブレーキの音をたて止まると降りた。
勢いよくこいできたわりには息が乱れていない。
「おはよう、室岡」
大型犬が、にぱっと白い歯を見せて笑う。
朝の日差しがよく似合うと思った。
「おは…よう……三上」
つられるように、雅人もぎこちなくはあったが挨拶を返す。
だが頬が紅潮してくる。身体中の血液が一気に顔に集中してくるようだ。
クラスメートに挨拶するくらいごく当たり前の行為のはずが、こうも意識してしまうのは昨夜の電話の電話のせいだ。
肩を並べて歩き出し横目で三上の顔を見上げれば、いっそう意識する羽目となった。
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