フレンズ

□---3
2ページ/5ページ

たどたどしく本を読む弟の声を聴きながら、母親を見ていた。

自分だけの母でなくなったのは、七年前。
実父の記憶も輪郭だけになっていた。

父の帰りを待ちながら料理を作る母。
みんな揃っての夕食までのひとときに宿題をする弟。
それを見てやる兄。

こんなよくある家族風景。
でも居場所がないと思ってしまうのは、いけないことだろうか。

玄関が開く音がした。
今の父が帰ってきた。

「あ、おとうさーん」

読んでいた教科書を放り出し、佑太郎が出迎えに走っていく。

「ただいま、佑太郎」

優しい父。
佑太郎が可愛くて仕方がないと抱き上げ、居間に入って来る。

「お帰りなさい……」

佑太郎が出したままの教科書を片しながら、雅人は言った。

父は無言で頷くと、そのまま母の元に行く。

雅人の顔に旧友の面影を見ているのかもしれない。

「さ、ご飯にしましょうね」

嬉しそうな母の声が聞こえる。

一家団欒の食事。
少なくとも三人にとってはそうだ。

テーブルに配された人数分の箸を見ても、雅人は居場所を感じられない。
家を出てしまった義姉が羨ましいと思わずにはいられなかった。

「雅人…くんはそろそろ試験か」

表面だけの義父との会話。

「いえ…。まだ一ヶ月あります」

箸を休めることもなく答える。

「その後に球技大会があって、また忙しいんです」
「兄ちゃん、きゅーぎたいかいって?」
「ボールを使ったスポーツをいっぱいするんだ」
「ふーん」

弟ににこやかに答えながらも、早く食事を済ませ、割り当てられた自室に戻りたいと思っていた。

食事などどうでもいいと思う。
ならなぜ、自分はここにいるのだろう。

 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ