フレンズ
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典之の家からはバスを使って帰った。
「兄ちゃん」
ドアの開く音を聴きつけて十歳下の弟、佑(ゆう)太郎(たろう)が出迎えてくれる。
弟の名前に「太郎」と入っているのは実質室岡家の長男である以上致し方ない。そんなこだわりも、とうの昔に卒業した。
母親を取られたなどと子供じみた感傷はなかった。半分血の繋がった可愛い弟。そう言い聞かせて成長を見てきた。
「ただいま、佑くん。はい」
学校では見せたことのない笑顔で弟にもらってきたパンを渡す。
「なにこれ? わーパンだ! たべていいの?」
「もう夕飯だろ? 母さんに訊いてからにしろよ」
「うん」
小さな弟はパタパタとキッチンにいる母親の元にかけていく。
「あら。お帰りなさい、雅人。どうしたの、これ?」
夕食の準備に追われながら母親が顔を出す。
「友達んちでもらった」
配分がたまたまそこにいた雅人にまで回ってきたわけだが、そこまで詳しく話すこともない。
「そうなの。じゃあ何かお礼しないと」
「いいよ、そんなの。――それより父さんは?」
典之の家に寄ったせいで、普段より帰りが遅くなった。もうこの家の主も帰宅しているだろうと思っていた。
「もうすぐよ。さっき電話が鳴ったから。だから佑ちゃんたら玄関で待ってるの」
それであんなに早く玄関での出迎えがあったわけだ。母親の何でもないような言葉に反応してしまう自分がおかしかった。
そんな自分を誰に見せることもなく自室に行こうとしたとき、再び母親が言った。
「あ、雅人。悪いけど佑ちゃんの宿題つき合ってもらえない?」
「宿題?」
春から小学校に通いだした弟は、本読み、書き取りなどの宿題があるらしい。それを家のものがチェックシートに確認のサインをする。
「あのね、兄ちゃん」
国語の教科書を持って佑太郎が、足元に纏わりついてきた。
「なに?」
しゃがみ込み、目線を合わせる。
「しゅくだいなんだ。ほんを3かいよんでくるようにって」
「そうか。じゃ、ちょっと待っててくれる? 兄ちゃん鞄を部屋に置いて着替えてくるから」
「うん」
佑太郎がにっこり笑う。
兄が外で何をしているかなど到底知らず、まだ人を信じて疑うことを知らない弟の無邪気な笑顔が、なぜか背の高い級友と重なった。