人形は歌わない

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「精巧に作られた等身大人形? それって――…」
 レイの話を聞きながら勘のいいアレンが言う。
「ああ…そうだ。そっちはオプションらしいが」
 つまりは成人女性を模したラブドールとかリアルドールとか呼ばれているそれらと同類なのだ。
 早い話がセックスドール。もちろん、純粋にエンジェル・シリーズ同様、愛くるしい人形を愛でるユーザーもいる。
 だが、アークエンジェルは子供の姿をしているのだ。オプションとはいえ、そういう機能もセット出来ると説明されると、年端も行かない子供を性の対象に見ているようで、どうしてもチャイルドポルノなど、小児性愛(pedophila)を考えてしまう。人形のオーナーすべてがそうだとは限らないのにエスカレートした先の犯罪を。
 アークエンジェルは人形というにはあまりにもリアルな人形(ひとがた)だった。
「じゃ、オヤジが何かした、ということはないんだな」
「アレン、どうしてそういう方向に話しが行く?」
「な、いっぺん聞いとこうと思っていたんだけどさ。レイってノーマルセックスオンリー?」
「アレンっ」
 さらに重ねたアレンの言葉にブレーキを踏み込む。いやブレーキを踏んだのは信号が変ったからだと言い訳するが、車は停止線かなり手前で停車した。ブレーキペダルを緩め、そろそろと白いラインまで進めた。
「だってレイって、そっち方面まったく話題に上らないじゃん」
 堅物――。
 それが署内でのレイの風評だった。監察医のジョナが面白がって教えてくれた。
「そういう話は止めてくれ」
 あまりのバカらしさにレイは同僚の品性を疑いたくなる。
 事件のことを話していたはずだ。それがどうして自分のセックスの話になるのだ。
「女の子とか付き合わないの?」
「だからっ。そんな話関係ないだろっ」
 どんな話題にしろ、とかく他人に口に上るのは好きではない。
「女相手はダメ?」
「アレン!」
 声を荒げるが、アレンはまだ何か言いたげに見えた。どうしたら黙らせられるか。
 もう一度助手席をちらりと見、正面に視線を戻すと信号が変わった。
 レイは加速後車間距離を見ながら、アクセルとブレーキペダルにつま先と踵を置いた。右手はギアヘッドに置き、タイミングを計る。そして流れに合わせて車線変更を繰り返した。あっという間に、後続車が小さくなっていく。
「レイ、俺が悪かった。頼むから安全運転してくれ」
「安全運転だよ。前方後方左右、すべて確認している」
 エンジンの回転数を一定の数値で維持する。伝わる振動が心地良かった。そう思ったのはドライバーだけで、同乗者の口数は極端に減ることとなった。
 
 
 

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