人形は歌わない

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「昨日、あったんです。ドアの隙間からちらっと見ただけなんですけど、部屋の真ん中でおっきな人形がその椅子に座っていたんです」
 カーラはダイニングテーブルの横にあった椅子を指さす。
「おっきな…ってどれくらいの大きさかな?」
 そんなものはなかったな、とバークレーがレイの顔を見る。大きさも何も人形と形容するものは一つもこの部屋にない。あれば男の一人暮らしだ、かえって目に付くだろう。
「あの、子供くらいの……。あれって多分コッペリア社のアークエンジェル・シリーズだと思うんですよね。友達がコッペリア社の人形にハマっていて、カタログ見せてもらったことあるから」
「コッペリア社?」
 バークレーはそのまま問い返す。レイも初めて聞く名だった。
「エンジェル・シリーズという人形の作成キットを販売しているんです。本当にシリーズ名どおり天使のようにキレイな人形で」
 バークレーは人形と聞き、動物のぬいぐるみを浮かべたようだった。レイも大して差はなくテディベアを想像していた。
 第一、人形といえば子供がごっこ遊びをするビニール樹脂の小さなものしか浮かばない。バークレーを見れば同様に怪訝そうな顔をしていた。
「天使……。あなたの言う人形はクマやウサギじゃなくて」
「ええ。だから、バーガンディさんに聞いたんです。『エンジェルですか?』って。そしたら慌てて私を追い立てるようにドア閉めるんだもの。花代もらいそこねてしまって」
「でもどうしてそれがその人形だと思ったんですか?」
「子供かな、とは思ったんですけどね。でもじっとしてて動かないし、カタログで見たままのドレスだったから。こうフリルやレースがいっぱい付いたふわふわの……なんていうかすごいレトロな衣装で。そんな格好の子供って普通見ないでしょ?」
 レイはバークレーとカーラの会話を再び手帳に書き留める。
 確かに一般的にそういう格好をした子供をこの辺で見ることはない。せいぜい何か特別なイベントがあるときぐらいか。それでも滅多にない。
「その…人形…がなくなっていると」
 眉根を寄せて一つの答えを導き出したバークレーに、神妙な面持ちでカーラは頷く。
 だとしたら犯人が持ち去ったと考えるのが妥当だろう。
 


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