人形は歌わない

□[1]
2ページ/3ページ

「アレン、俺はジョナと話をしているんだが?」
「もう済んだんだろ? バークレー(オヤジ)が呼んでるぜ」
 いつも何かとレイの視界に入ってくるアレンは同じ年の同僚だった。ダークブラウンの髪に琥珀(アンバー)色の瞳が印象的で、彼が去年同じ部署に配属されてきて以来、行動を共にする機会が多かった。
「すみません、ジョナ」
 アレンのどうみても大人気ない態度を代わりに謝るが、監察医は気にしてないと言うように、ぽんっとレイの肩を軽く叩く。そして搬送されていく死体とともに部屋から出て行った。
 死体があった場所にはバラの花とマーキングされたテープが残った。
「お花に囲まれて死にたいのーじゃないだろ、ったく」
 それらを横目でアレンはぶっきらぼうに言い放つ。ふざけた物言いだが、彼の苛立ちが含まれているのが分かる。どんな理由があるにせよ、人が人を殺めることは許せない。
 性格も、またその容貌もレイとは正反対のアレンだが、警察官としての矜持は同じだった。
 
 
 
「ああ、レイ。マクガバンはなんと言っていた?」
 背中にアレンの視線を感じつつ、レイはバークレーに今聞いたことをそのまま告げる。
 このレイとアレンの上司、トマス・バークレーの階級は警部。五十に手が届く男やもめだ。
 バークレーのネクタイは相変わらずよれており、妻を亡くしてからずいぶんたつというそれを顕著に表している。シャツはクリーニングに出しているようでプレスが効いていたが、上着の裾には脱いだまま放り出していたのを羽織ってきたとしか思えないしわが付いていた。
「怨恨というのが妥当だな」
「そうですね」
「警部、第一発見者を連れてきました」
 制服警官が青ざめた顔をしたまだ若い女性を一人連れてくる。
「分かった、今行く」
 バークレーの返事にレイも頷き、アレンを残し、あとに続いた。
 カーラと名乗った女性は、近所の花屋の店員で、昨日夕方バラの花束を届けたという。そのときの代金を今日支払ってもらうためにハロルドを訪ねてきたら、彼は何者かに殺されていたのだ。
「部屋の鍵は開いていたんでした?」
 バークレーが確認するように尋ねる。
「あ、はい。開いていました。呼んでも返事がないので留守かなって思ったけど。でもドア開いたし」
「そうですか。昨日の様子をもう少し詳しく教えていただけませんか?」
「はい、あの……人形が……」
「人形?」
 聞き返したバークレーの声にレイはメモしていた手を止める。

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ