「うっ――」
男は呻いた。今自分に起きたことがとっさに判断できない。
「どう…し、て……」
男は目の前に立つ影を見ていた。
金の髪、澄んだ青い瞳。滑らかな白い肌、艶やかな唇。
「お、まえ――っ……」
成す術もなく、男は後ろに倒れた。そのままベッドから落ち、床に転がる。
ごふっとこみ上げてきたものを吐き出す。口の中に広がった血の味。ひっくり返ったまま咳き込んだ。胸に突き刺さったナイフが男の呼吸に合わせて激しく上下している。
影が近付き、見下ろしていた。窓から差し込む淡い月明かりが浮かび上がらせている。それは、まごうことなく美しかった。背中に羽すらあるように見えたのは、混濁する意識が見せた錯覚だろう。
このまま自分は死ぬのだ、と男は思った。
天使を陵辱した自分は、今罰を受けたのだ。
「――ェ…ル……」
あっけないほどの人生の終焉。
男は天使に看取られて息絶えた。
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