アニキの恋人

□アニキの恋人2
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「な、アニキ。室岡さんてカノジョ、いたんだねー」

その日の夕方忠敬は、帰宅した兄に待ち構えていたように学校帰りに見たことを話す。

「室岡に彼女?」

マンションの狭い玄関で片足立ち、運動靴を脱ごうと紐を解いていた兄が、怪訝そうに忠敬を見上げていた。

「そうだよ、室岡さんのカノジョ。仲良さそうに歩いているとこ見たんだオレ」

「ありえん」

短く、兄の口から否定する言葉が出る。

確かに彼女かどうかは、忠敬がそう思っただけなので、実際のところは分からない。
けれど、あまりにきっぱりと言われてしまうと、「見たままを話しているだけなのに」と面白くない。

「アニキ、室岡さんのことどれだけ知ってるっていうんだよ」

「お前なんかよりずーっと知ってる」

兄の言い方が、ますます神経を逆撫でする。

「なんだよ。オレ見たんだからな。室岡さんがジョシコーセーと仲よさげに歩いてるとこ」

つい忠敬は、剥きになって言い返した。

「女子高生?」

靴を脱ぎ上がり口に立った兄が、忠敬を見下ろす。
今度は忠敬が見上げる番だった。

「ジョシコーセー。セーラー服だったよ。それにアニキのことも知ってるみたいだったけど……」

「そっか。それなら……」

兄がにやりと口元を歪める。

忠敬はその顔が嫌いだった。
自分をバカにして言うとき、兄はそんな顔をするのだ。

「なんだよ。アニキも知ってる人?」
「ああ、多分それ、川野だ。うちのクラスの副委員長」

そういえば、室岡もそう彼女のことを呼んだような気がする、と忠敬は思い出す。

「カノジョじゃないの?」

忠敬に最初の威勢はなく、今は消え入りそうに語尾が弱かった。

「ある意味彼女だな。室岡と一番仲がいい女子だ」

「あるイミって何だよ」

「ガキは知らなくていいハナシ」

「ガキって言うなっ」

子供扱いして勿体つけて話す兄の、まるで年上の余裕を見せつけるような態度に忠敬は口を尖らせる。

けれどあんなに親しげだった二人の関係がただのクラスメートとは思えない。
それが、「あるイミ」が意味するところなのだろうか。
たった二年違うだけで、兄たちは自分よりもずっと大人で、それが今の忠敬には悔しくてたまらない。

「でもさ、アニキ。コーコーセーになると女子とも今のダチたちとつき合うように話したり一緒に歩いたりするもん?」
 
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