アニキの恋人
□アニキの恋人2
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「室…岡…さん?」
間違いなく室岡だった。
こんな家の近くの本屋でまさか室岡を見かけるとは思わなかった。
室岡の家はこの辺じゃないはず。
一瞬、今日は家に来てくれる日だったかと思ったくらいだ。
「も、もしかして室岡さんのカノジョ?」
目の前の男女の高校生は親しげに話をしていた。
忠敬はなぜか気まずさを感じてしまった。
踏み出していた足も止まる。
だがその代わりなのか、耳に神経がいく。
「室岡、ありがと。あったわこの店に」
「そう、よかったよ。こないだ見かけてさ。川野さんが探している本だったよなって」
「うん。お礼に今日は驕っちゃう。何がいい?」
彼女は探していた本が見つかったからだろう、嬉しそうに室岡を見上げていた。
「そうだな。あとが怖い気がするけどお言葉に甘えておくか」
「何よ、それ」
どこをどう聞いても、忠敬には高校生の恋人同士の会話にしか思えない。
「室岡さん、カノジョ、いたのか……」
それも可愛い。美人タイプではないが、ともかく可愛い。
肩のあたりまであるさらさらとした髪が、クラスの女子とは違って大人びて見える。
膝辺りまでのプリーツスカートと白のソックスが清楚で、やっぱりクラスの女子とは違う。
「すっげ似合ってるじゃん」
室岡とお似合いだと思った。
そんな室岡に自分は、と、後ろめたさに痛烈に襲われる。
よりにもよってあの兄の恋人ではないかと疑っていたなんて。
「でもさ、この辺って室岡の家の近くってわけじゃないよね?」
「ああ、三上んちの近く」
「そっか三上ね」
三上、という名に忠敬は顔を上げる。