アニキの恋人

□アニキの恋人2
5ページ/14ページ

「えっと、受験向けの参考書――と」

本の傾向ごとに分別された棚を覗きながら、目当ての参考書を探していく。
先日室岡から受験対策にいいと教えてもらった本だ。
兄崇史も持っていた気がするが、自分で買おうと決めた。

「あった、これだ」

目的の本を居並ぶ背表紙の中から見つけ出し、手に取った。

「うっへー、分かんねーよ。やれるのかな、オレ」

ページをパラパラと捲り中を確認する。

「いいや、頑張るんだからオレ」

右手を自分の前で力強く拳に握り込めば、近くで同じように本を見ていた女子高生と目が合った。
そのかすかに笑んだ表情に、忠敬は先ほどから独り言を繰り返していることに気づく。

「うっ!」

一気に羞恥心が顔面に広がり真っ赤になる。
忠敬はバツの悪さから、くるりと向きを変えるとそのコーナーを足早にあとにした。

「はじー」

棚に隠れて、そっとさっきまでいた場所を窺う。
もう女子高生の姿はなくほっと息をついた。

「そうだ」

気を取り直してマンガ本の棚に向かい、新刊コーナーで買い続けている少年マンガの単行本を見つける。

「お、出てる出てる。じゃあこれもと、……た、足らねーじゃん」

二冊の合計を出して財布を見れば、参考書とマンガを買うにはわずかに届かない。
ポケットに小銭が入っていないかと僅かに望みをかけて探るが、出てくるのはコンビニのレシートだけだった。

「どっちか諦めなきゃな。どうしよう」

どっちかを諦める。

究極の選択に思えた。

「ええい、何を迷ってんだよ、オレは」

手にしていたマンガ本を元の場所に戻す。

「決めたんだからな。勉強して慶南行くんだから」

こんな忠敬を見たら、さっきまで一緒だった友人たちはまた驚くだろう。
あの兄もきっと同じ反応をするに違いない。
だいたい今までマンガ、テレビ、ゲームととうてい受験とは程遠い生活を送っていたのだから。

「よし」

レジで会計を済ませ、袋に入れてもらった参考書を脇に抱える。
さっそく家に帰って分かるところだけでもやるつもりだ。
そして次に室岡が来たときに質問出来るようにまとめておく。
そう予定を立てた。

「あ…れ?」

本屋を出たところで先ほどの女子高生の姿を見つける。
いや正確には、女子高生と一緒にいた男子高生に目がいった。
 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ