アニキの恋人
□アニキの恋人2
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「これからどうする?」
今日は始業日。宿題と課題に追われた夏休みも終わり二学期が始まった。
来週早々には実力テストが控えている。
「本屋寄ってく」
学校の帰り、忠敬は一緒に帰途についた友人たちに答える。
「おう、じゃあいつものゲーセン行くか」
これまでの忠敬なら、いつも出入りしている近所のショッピングセンターのゲームコーナーにその友人たちと立ち寄っていた。その中に本屋もあり、幼児向けの絵本が充実している。
「じゃなくて近所の本屋。参考書欲しいのがあるんだ」
「参考書? お前が? 勉強するのか?」
友人の一人が、信じられないと口を半開きのまま立ち止まった。
「何言ってんだよ。オレら受験生だろが」
バカにされたように言われ、忠敬は言い返す。
「そりゃそうだけどさ」
「お前もついに受験勉強かよ」
「おうさ。それに来週実力だぞ」
口々に言われたが、忠敬の返事は決まっていた。
「そういや、お前んちカテキョ頼んだんだよな。おかんが言ってた」
「家庭教師? 美人の女子大生? それで勉強頑張る気になったのか?」
家庭教師に反応した友人が矢継ぎ早に聞いてくる。
「……いや、アニキの友人。高校生、男だよ」
「何だ、つまんねえの」
家庭教師のどんなイメージを持っているのだ。
「お前の兄貴って、慶南だろ? 特別よく出来る進学校ってわけじゃないよな」
兄、崇史を知っている友人に暗に高校のレベルを揶揄される。
「レベルは普通だろうけどさ、その学校の学年一番の人なんだよ。生徒会関係の仕事もしているって聞いたし」
室岡をバカにされたようで面白くなく、つい強い口調になった。
「学年一番……」
一番と聞いて、感嘆した声が上る。
どんな高校でも、学力レベルはピンからキリ。
最高がいれば最低がいる。その中の最高の人に教えてもらっているのだ。
「けどさ、その慶南すらあやしいんだよな、オレらのレベルじゃ」
溜め息混じりに言った友人が、頑張れよと忠敬の肩を叩く。
「じゃあな、また明日な」
「おう。明日な」
友人たちと別れ、通学路の途中にあるそのショッピングセンターを通り過ぎ、忠敬はいつも行く本屋に向う。
その店は受験向けの参考書や問題集の類の品揃えがよかった。
「ふんっ」
慶南は普通レベルの高校だ。
だけどそこで一番を張っている室岡はすごいのだ。
一番は一番。それに室岡の成績ならもっと上の学校にも行けたのだという話も兄から聞いていた。
その「普通レベル」の慶南でさえ、忠敬の今の成績では少し難しい。
「春、慶南行けたらいいな」
兄と同じ学校に、というより室岡と同じ学校に。
せっかく時間を割いて教えてもらっているのだから、応えたい。
「頑張るしかないじゃん。頑張ろう、オレ」
これから一生懸命勉強して、一緒の学校に行くのだ。
しかしなぜ同じ学校に行きたいと思ったのか、実際のところはよく分かっていなかった。