アニキの恋人
□アニキの恋人2
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「あのさ、室岡さんてどうして料理出来るの?」
リビングで、室岡が持って来てくれたおやつを食べているとき聞いてみた。今日のも手作りだそうで、チョコチップの入ったミニカップケーキだ。
「料理好きな姉貴に教えてもらってる」
室岡に姉がいるというのは初めて聞く話だった。
もしかして、兄の彼女とは室岡の姉のことだろうか?
だから二人は仲が良いのか?
忠敬は上目遣いで正面に座る室岡の様子を窺う。
が、目が合い慌てて逸らした。
そのとき玄関のドアが開く音がする。
兄が部活を終え帰ってきた。
「来てたか」
「ああ」
簡単な会話。
「ただいま」もなく、家にいた忠敬にも何も言わず。
その短い会話だけで、何もかも分かり合っているような、そして居合わせた忠敬は眼中に入っていないような兄の態度。
「シャワー浴びてくるわ。部屋行ってろよ」
「ん――」
何か面白くなく、室岡は自分のために来ているのだと無性に主張したくなった忠敬は、実際そうした。
「アニキ、今はオレの勉強見てもらってるんだからな」
「何だ、忠敬。勉強は済んだんだろ?」
今その存在に気づいたとでも言わんばかりに忠敬のをちらっと見て、兄の言葉の後半は室岡に向けられていた。
「今ちょっと休憩してるだけなんだから。これ食べたらまた続きやるの」
再度主張するが、崇史は答えず、浴室に向かう。
「アニキ! 話聞けよ!」
無視された忠敬は立ち上がるが、残りのケーキが目に入り、座りなおすと同時に手を伸ばした。
こうなったら全部食べて、兄の分などなくしてやる。
そんな勢いだ。
口いっぱいにほお張れば、案の定喉をつまらせた。
慌てて牛乳で流し込む。
「大丈夫?」
「うん、平気」
室岡は笑っていた。
呆れられたかもしれないと思うと忠敬はちょっと悲しくなる。
「まだあるから。ゆっくり食べなよ」
兄と違って、室岡は大人だなと思った。
これが兄なら、思い切りバカにしてそのあとケーキを全部持っていってしまうのだ。
「じゃ、もう少し、問題集やろうか」
「はい」
きれいに片づいた皿を流しに下げたあと、室岡が広げたままの問題集のページを捲り、次の例題の説明を始めた。