フレンズ

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キャンプで定番といえばカレーだと、当番に当たった班が準備を始めるが、家事になれない人間がぎこちなく包丁を手にするのは見ていて恐怖を覚える。

余裕を見ていたつもりの時間も、そんなことで差し迫ってくるとどうにもじっとしていられない。

「貸して。そっちにピーラーがあるだろ。それで皮をむいて」

自分がこうも差し出がましい性格だったということには目をつぶり、幼少に親が離婚し働き出した母に代わってしばらくは家事全般をやっていたせいだと、慣れた手つきを披露する。

「へぇー室岡って器用なんだな」

顔を上げると背をかがめて三上が覗き込んでいた。

「半径一メートル、近づくな。気が散る」

そのまま無視をして人数分の野菜を切り刻む。

素っ気ない、と三上が言ったがいつもの会話のうちだ。

その三上もまだるっこしく炭と格闘している級友に代わり、手際よく火を熾(おこ)す。

「おい、花火。危ないからどっか持っていけよ」
「わー、何でこんなとこに置いてあるのよ。今夜のイベント係! ちゃんと管理しなさいよ」
「あ、そんなところにあったのか!」

炭の箱近くに積んであった花火の袋を指して、洗った米を飯盒に入れて持ってきた女生徒が叫ぶ。
慌ててくだんの係の一人が回収する。

雅人は、普段教室では垣間見ることもないクラスメートたちの一面に、置いていた距離が短くなっているのを感じた。




「では! 夜も更け腹ごしらえも済んだというところで今夜のイベント、花火大会を始めたいと思います」

キャンプで面倒な役は引き受けるといった三上に引きずられて、係の一つを押しつけられた伊沢が宣言する。

「おい、場所下の広場まで移動するから足元に注意しろよ」

伊沢をフォローするように三上が横から口を出す。

「今それ言おうと思ったんだよー」
「イベント係、水の用意はいいか? 班ごとで移動始めてくれ」

嘆く伊沢を無視して雅人も立場上の注意事項を口にする。

「わーもう、委員長までー。班長は花火取りに来てねー」

役目を果たすべく伊沢は小分けにされた袋を配り始めた。

 
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