フレンズ

□プロローグ
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五月。
中間テストも終わり、校内に植えられた桜の葉が、強くなる日差しの下で輝きを増す頃。

放課後――クラス委員の定例会議が、生徒会室の隣の会議室で終り、委員バッチをつけた参加者たちがそれぞれの場に戻っていく。

クラス委員に加え、二年生総代という役職を拝命している室岡雅人(むろおかまさと)も立ち上がった。
だが、窓の外の何気なく目に入った校庭の様子に足を止める。

トラックを駆ける同じクラスの彼の姿があった。
バネのような肢体に汗が滲んでいる。

「何見てるんだ、陸上部?」

自分の肩越しに窓の外を見ている雅人に、現副会長の役職を持つ橋倉典之(はしくらのりゆき)が口の端を僅かに上げて言った。

「……別に何も。俺もう帰るから」

視線を典之に移し、ついでに会議室を見渡せば、すでに自分たち以外の人間は部屋に残っていない。

「まだだよ。肝心なことが残っている」

笑みを浮かべた典之は部屋の内鍵をかけにドアへ向かう。

何をする気か、などと聞くまでもない。
二人にとっていつしか当たり前となったことだ。
雅人は自分から求めたわけでないと言い訳じみたものをいつものように内心覚える。
だがそれでも、了解とばかり小さな溜息を足元に落とすと窓のカーテンを閉めた。

「おまえはいつもそうだな。何か辛そうな…泣きそうな顔をする。いい顔が台無しだと思うよ」

制服の上着を近くの机に脱ぎ置き、ズボンのベルトを緩めながら典之が近づいてくる。

「何がいい顔だ」

言われても誉め言葉とは思えない。

「笑えばいいのに」
「おかしくもないのに笑えない」
「相変わらず素っ気ないヤツ」

普段、当り障りのない表情で本心を隠しているが、実際の雅人は愛想のない男だった。

典之も心得たもので、素の雅人の態度など慣れているとばかり、構わず手がウエストの隙間から滑り込んでくる。

「痩せた?」
「そんなこと、関係ない」
「関係ない…ね、確かに」

何を思ってか典之は、窓の外に視線を投げた。

当然閉められたカーテンでその先を見ることはかなわないが、雅人は自分が見ていたものを知られてしまいそうな気がして、典之を促す。

「ヤルんだろ?」
「ヤルよ。そうしたい年頃だからね」

もう喋るのは面倒とばかり、雅人は典之の細い腰を引き寄せた。

これは自慰と同じだ。
ただ、相手があるだけのこと。

甘い語らいも、思い遣ることも何もない。
ただ自分の性欲処理のために、都合よくそこに相手があっただけのこと。

親しいといえる友人はいない。
心を開いてつき合ったとしても、いつか裏切られる。
表面上はにこやかにしながらも、相手に踏み込んでいくことは出来なかった。

探しても見つからない居場所を懲りもせず求めている自分に半ばうんざりしながら。



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