人形は歌わない
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コラントと会うためにクラウドから指定されたのは市内でも有名な高級ホテルだった。その最上階のレストラン。ここからの眺望は絶景だった。
アレンには店の外で待つよう言ってある。表向きは非番であるレイが個人的にコラントと会うのだ。
「急に呼び立てて申し訳なかったね」
案内されたテーブルにはコラントひとりだけ着いていた。秘書のクラウドは横に控えて立っている。
「いえ。わたしのほうも一度話がしたいと思っていましたので」
「ほう、嬉しいことを言ってくれるね。だが先に話をさせてもらうよ。レイモンド・クーガーくん、私の下で働かないか?」
いきなり直球勝負だった。アレンが調べていたとおりだ。
「コラントさんの下で、とはどういう意味ですか?」
事前に話を知っていたことなど、おくびにも出さずに問い返す。
「ジェームスで構わないよ。私も君のことをレイと呼ばせてもらおう」
「分かりました、ジェームス。あなたの下で働くというのは今の仕事を辞めてという意味ですか?」
「もちろん。君の事は調べた。刑事などやっているには非常に惜しいと思う」
綴じた書類とレイの写真が数枚テーブルに投げ出された。それが自分に付いての報告書だと知る。写真には見覚えがあった。
レイはクラウドを見たが、彼は能面のように無表情だった。
ウェイターがワインを運んできた。予めオーダーされていたらしい。
レイの前にグラスが置かれる。だがそれを制した。代わりにコーヒーをオーダーする。
「……ワインは好みじゃないか?」
怪訝そうにコラントは顔を顰める。
「いえ、話が済めばすぐ帰りますから」
「帰る? 私のほうは帰す気はないが?」
「それでも。あなたの話はそれだけですか? わたしのどこが気に入ったのか分かりませんが、私は今の仕事を辞める気はありません。ですから……」
「刑事など、野蛮で割の合わない仕事だと思うがね。辞めたくないならそれでも構わない。そうそう、君のアパートは火事になったそうだね。何だったらここで部屋を一つ取ってもいいんだよ」
さすがに情報が早い。火事は今日未明。
コラントの目が好色そうに自分を見ていた。何が目的か一目瞭然だった。
レイはどうしようもなく苛立ってくる。親としてダニエルをどう考えているのだ――。
「ジェームス。あなたの話は分かりました。しかし私はそれを受ける気はありません。今の生活が気に入っていますから」
「手ごわいな。君のようなタイプは初めてだ。レイ」
コラントは薄く笑った。どう話しても納得してくれそうもない。なら、とレイは自分の目的を切り出す。
「ではジェームス。わたしの話も聞いてくれますか?」