人形は歌わない
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「今日の宿直はレイとテッドか?」
夕方、シフト表を見ていた上司が当事者たちに目を向ける。捜査は忙しいが、これも大事な仕事だった。
「はーい、そーでーす」
先生の質問に答える生徒よろしく、テッドが手を上げた。
「レイ、聞いているか?」
「あ、はい。……すみません」
目の前にバークレーが立っていた。レイは普段なら絶対しない失態を恥じた。
「疲れているのか? なら宿直誰かに代わってもらうか?」
「いえ、大丈夫です」
心配は無用と言い切るが、しかし実のところ、すっきりしない体調を持て余していた。
疲れていた。だがそれは捜査に当たっている人間は皆同じなのだ。自分だけではない。
アレンはまだ今日は署に出てきていない。朝からどこかに直行したのだろう。そしてそのまま直帰か。
バークレーには定期的に連絡が入っているようだが、アレンと顔を合わさない日があれから続いている。
街の明かりがぽつぽつ消え、夜食に買い込んだバーガーも食べ終わった。
「ねー、レイ先輩。アレン先輩とどうしちゃったんですか? 前はしょっちゅう一緒にいたのにー」
「テッド、君はもう少しその好奇心を仕事のほうにいかしたほうがよくないか?」
レイは能天気なテッドを睨めつける。だがテッドはそんな目線もどこ吹く風だった。
「仕事も頑張ってますよ。でも先輩、何か悩みあるんなら相談に乗りますよー」
「結構だ」
好奇心に満ちた目をして自分を見ているテッドに何を話すことなどあるわけがない。
そのまま後輩を無視して、これまでの報告書を見返す。なかなか進展しない捜査にどうしたものかと、みな苛立ちは隠せず、しかし時間は容赦なく過ぎていく。
現場から消えた人形。自分宛に送られてきた人形や自宅近くで偶然見かけた人形のような少女。すべてが無関係なのかどこかで繋がっているのか。どうも目覚めが悪く人形嫌いになりそうだ。
そしてアレン。
自分を好きだと言った。酔って告白されて。それから……また資料室でキスされた。
交錯する思考の中で、レイの脳裏に靄のような影がよぎる。
人形のような少女。そうだ、もっと前にも見ている。だがどこで見たのだろう。
「先輩? ぼんやりしてどうしちゃったんです?」
テッドの声に形を取りかけていた影があっけなく霧散していく。
「何でもないよ、テッド」
見えないのはデータが足りないからだ。何か見落としているのかもしれないと、再び初めから書類を繰り始める。
そのとき部屋の電話が鳴りテッドが出た。
「先輩!」
「どうした?」
テッドの形相に事件かと身構える。
「今、連絡が……。先輩のアパート燃えてるって……」