人形は歌わない

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「レーイ」
 遅い昼食を取り、署に戻ってきたとき、アマンダが小包を持ってきた。
「今下の受付でこれ預かってきたのよ」
 有名デパートの包装紙で包まれたそれを受け取ったレイは怪訝に思いながら差出人を確認する。まったく覚えのない女性名が書いてあった。
「なんだ? お安くないな、レイ」
 興味を惹かれたカイルがレイの手元の箱を覗き込む。
「でも知らない人ですよ?」
「こういうときは開けて確かめればいいさ」
 それもそうかとレイは包装紙を破り、中から箱を取り出した。そして蓋を開ける。
「ひぃっ」
 アマンダが悲鳴を上げた。
 吐き気がした。あまりにも悪趣味すぎる。
 箱の中身は大量生産されているビニール製の人形だった。首は折られ、目には画鋲が刺してあった。髪には無残にもハサミが入れられ、ばさばさに刻んである。
「ひっでー。何だっていうんだ、これ」
「……嫌がらせ、なんでしょうか」
 そうとしか思いようがない。心当たりはなかったが、仕事柄知らずに誰かに知らず恨みを買っていたのかもしれない。
「レイ、気にするな。タチの悪いいたずらだ」
 カイルが慰めるように肩を叩く。
「はい――…」
 気にすることなどない。
 自分でもそう思うが、さすがにチャンネルを変えるように簡単には気持ちは切り替えられなかった。
 
 
 
「この辺お前のアパートの近くじゃないか」
 立ち並ぶアパートを見上げながらカイルはそこがレイの住居の近くだということに気付いたらしい。
 今日はこの近くで起きた引ったくりの現場検証でカイルと行動していた。手がけなければならない事件はハロルドの件だけではない。程度の差こそあれ、毎日のように事件は起きている。
「ええ、かなり近いかな」
「そういやお前のとこ古いよな、築何年だ?」
「えっと、何年だったかな」
 建てられてからかなりの年数がたっていることは間違いなく、その分家賃も値打ちで軋む階段や少々立て付けの悪いドアなどに目を瞑れば、レイには最高の住処だった。
「なぁレイ。俺が訊くのは妙なもんだけど、お前らどうしたんだ?」

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