人形は歌わない
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「ええ、ハロルドを昼間訪ねたのはタラント氏の息子ダニエルでした。彼はときおりハロルドの部屋でも勉強を見てもらっていたそうです」
タラントの屋敷を辞するとレイは携帯電話で上司に報告した。
三軒目の家のエイミのことも告げる。電話口でバークレーが溜息をついたようだ。向こうにも何か新しい情報が入ったらしい。
「――はい、分かりました。ええ」
電話を切るとレイは運転席に深く身を沈めた。
「オヤジなんだって?」
心なしか脱力しているレイをアレンが覗き込む。
「ハロルドの身辺を洗っていたやつからの報告。ハロルドは前に訴訟されかけたって」
「訴訟?」
今上司から聞いたばかりの話をアレンに告げる。
「Child Sexual Abuse(未成年に対する性犯罪)。保護者が訴えてね。でも具体的に何かされたという証拠もなくて、偶然すれ違ったとき手が触れたとか、そういう感じだったようだ。ふだんの真面目な生活態度もあって立証出来なかったらしい」
当然ながらエイミの話がよぎる。
その相手というのが、今度ジュニアハイスクールに進もうかという少女だった。やはり近所でも評判の可愛らしい子で、保護者もそういう問題には過敏になっていたという。
「やっぱ小児性愛(ロリコン)?」
「そこまでは分からない。他の家庭教師としてきてもらっている家はそんな傾向などなくて、実際子供の成績が上がって感謝しているくらいだからね」
「あ、もしかしてその子も金髪?」
「あたり」
レイも気になり、その辺は上司に確認していた。
「ハロルドも金髪フェチだったとか」
アレンが思い出したように口にした。
レイは露骨に顔を歪めた。ダニエルが放った言葉がよみがえる。
「ともかくエイミの話を警部に話したし、今度はそういうことも視野に入れていくことになったよ」
もしかしたらハロルドはそういった陰に隠れた被害者から恨まれていたのかもしれない。
アレンは助手席で何か考え込んでいるようだ。ただし彼の場合、事件にかかわる内容かどうか何ともいえないが。
「レイ、今からの予定は?」
「あ? ああ、今日はもう戻ってこなくていいと言われたけど?」
「じゃ、運転代わるよ。今日はずっとお前が運転していたからな。疲れたろ?」
「いや。運転は好きだから、そうでもないけど」
レイは身を起こし、同僚の思惑を計りかねる。だが、車を降りて運転席に回ってきたアレンに追い立てられるように乗り込まれると、ギアを跨ぎ隣のシートに移動せざるを得なかった。
「ま、今日は落ち着いてメシ食ってないから、夕飯くらいはどこかのんびりと食っていこうぜ」
茶目っ気たっぷりにアンバーの目がレイに向けられる。レイはひとりでゆっくりしたいと思ったがハンドルを握ったアレンに従った。