人形は歌わない

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 今日はアレンと一緒に回っていた。
 その後の聞き込みで、事件前日の昼ハロルドを訪ねてきた黒髪の少年がいたという目撃証言が得られた。ハロルドはアルバイトで家庭教師をしていたこともあって、少年を特定すべくハロルドが契約していた家を回っているのだ。
「天気もいいし、ドライブ日和だね。このまま海岸線を走らせないか?」
 アレンがハンドルを握るレイの肩に腕を回す。
「仕事中にバカなことを言うな。この腕は何だ?」
「いいじゃん。今日のレイは機嫌が悪いな。オヤジと一緒じゃないから?」
「アレン!!」
 前方を見据えたまま、レイはアレンを一喝する。
 昨日はバークレーと一緒に、花屋の店員カーラの証言の元、コッペリア社を訪れた。
 レイの機嫌は指摘どおり良くはなかった。だがそれは間違ってもバークレーと一緒でないからではない。
「アレン、ふざけているんじゃない」
「……悪い」
 腕を引き、ホールドアップと手を上げる。ふざけている自覚はあるようだ。
「今日なんかお前苛立っているようだし。だから昨日オヤジと何かあったのかなってさ」
 レイは溜息をついた。
 やり過ごそうとした感情の起伏を指摘する、この同僚の琥珀(アンバー)色の目は苦手だった。じっと見つめられると、心のうちにせっかくしまっておいたものを露呈させてしまうような、居心地の悪さを覚える。
「……苛立っているかな俺。だったら多分――コッペリア社で見せてもらった人形のせいかも知れないな」
 口にすれば、それがすべてのように思え、理由がつけられなかった感情をすりかえる。
 ショールームに展示された人形たちはみな独特の雰囲気を持っていた。だがどれもデフォルトと呼ばれる規格そのままなので、人形の表情は妙に画一的だった。これを人形のオーナーとなった人間がカスタマイズし、この世に一体しかない人形に仕上げる。
「カーラが言ったとおり、今人形愛好家の中でコッペリア社のエンジェル・シリーズの人気が高いようだ。中でもアークエンジェルと呼ばれる十歳くらいの子供のサイズそのままの等身大人形は、値段もさることながら、それを所有することが一種のステータスのように言われている」
 他のエンジェル・シリーズの人形は手足頭部胴など、バラバラのパーツから自分で組み立てる球体関節人形のキットだったが、アークエンジェルはまったく別物だった。
 何といっても等身大サイズだ。人肌を意識した自社開発の特殊シリコンで被われたボディは滑らかで生産特有の繋ぎ目がなく、その上、関節も自在に動き、自由度の高いポージングが可能だった。

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