さよならのあとさき

□〔6〕
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ドアのチャイムが鳴った。

夜も更け、こんな時間に誰が、と久賀は玄関に立ちドアを開ける。
そして息を呑む。

「香坂……」
「ごめん、こんな時間に。先生に聞きたいことがあって、さ」

大輝は何か思いつめように、憂いだ顔をしていた。

あれから、昨日のことを木田が直接何か言ったのだろうか。
木田のあの調子なら言いかねない。
追いつめるような言葉を投げたのではないかと心配になる。

「聞きたいこと? ま、上がれ」

そんな胸のうちを隠して、久賀は何でもないように大輝を部屋に上げた。
玄関からキッチン続きの部屋は丸見えで、急いで散らかしていた読みかけの雑誌を片す。

「大した部屋じゃないが、こっちにかけろよ」

居間の三人がけのローソファを勧めれば、大輝は大人しく従った。
久賀もその横に腰を下ろす。

「あのさ、先生……。今日また呼び出されたんだろ? 今度はさ、オレのことで」
「ああ、それか。お前は何も気にすることはないよ。俺が小言を食らうのは毎度の――」

大輝の負担にならないよう、大したことではないと言おうとしたが、自分を見つめる大輝の目に、続けるはずの言葉を口に乗せることはできなかった。

「どうして……、何でさ、オレのこと庇ったりするんだよ」
「それは……。いや、昨日のことは、お前は何もしていない。ちょっと順番を間違えただけだ」

レジで会計をするのが後になっただけ。

だが大輝は首を振る。

「昨日だけじゃないよ。ホントはオレが先生のとこ行くの、迷惑だったんじゃないのか? こんな何しでかすか分かんないような生徒を相手になんかするの」
「香坂、自分なんか、って言うのは止しなさい。俺はお前のことを迷惑だなんて一度も思ったことはない」

やはり木田に言われたのだ。

久賀は歯噛みする。

「クラスで何を言われたのか知らんが、気にすることはないんだ」
「けどさっ……けど…けど……オレいやだ。オレのせいで先生が悪く言われるのって」
「だから、それはお前のせいじゃない」

そう口にして久賀はすぐに後悔した。
これでは、悪く言われているのだと認めてしまっている。

「香坂……少し落ち着こう。こんな時間に家を出てきて、家の人にはちゃんと言ってきたのか?」

大輝は縦に首を振った。
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