さよならのあとさき
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ドアのチャイムが鳴った。
夜も更け、こんな時間に誰が、と久賀は玄関に立ちドアを開ける。
そして息を呑む。
「香坂……」
「ごめん、こんな時間に。先生に聞きたいことがあって、さ」
大輝は何か思いつめように、憂いだ顔をしていた。
あれから、昨日のことを木田が直接何か言ったのだろうか。
木田のあの調子なら言いかねない。
追いつめるような言葉を投げたのではないかと心配になる。
「聞きたいこと? ま、上がれ」
そんな胸のうちを隠して、久賀は何でもないように大輝を部屋に上げた。
玄関からキッチン続きの部屋は丸見えで、急いで散らかしていた読みかけの雑誌を片す。
「大した部屋じゃないが、こっちにかけろよ」
居間の三人がけのローソファを勧めれば、大輝は大人しく従った。
久賀もその横に腰を下ろす。
「あのさ、先生……。今日また呼び出されたんだろ? 今度はさ、オレのことで」
「ああ、それか。お前は何も気にすることはないよ。俺が小言を食らうのは毎度の――」
大輝の負担にならないよう、大したことではないと言おうとしたが、自分を見つめる大輝の目に、続けるはずの言葉を口に乗せることはできなかった。
「どうして……、何でさ、オレのこと庇ったりするんだよ」
「それは……。いや、昨日のことは、お前は何もしていない。ちょっと順番を間違えただけだ」
レジで会計をするのが後になっただけ。
だが大輝は首を振る。
「昨日だけじゃないよ。ホントはオレが先生のとこ行くの、迷惑だったんじゃないのか? こんな何しでかすか分かんないような生徒を相手になんかするの」
「香坂、自分なんか、って言うのは止しなさい。俺はお前のことを迷惑だなんて一度も思ったことはない」
やはり木田に言われたのだ。
久賀は歯噛みする。
「クラスで何を言われたのか知らんが、気にすることはないんだ」
「けどさっ……けど…けど……オレいやだ。オレのせいで先生が悪く言われるのって」
「だから、それはお前のせいじゃない」
そう口にして久賀はすぐに後悔した。
これでは、悪く言われているのだと認めてしまっている。
「香坂……少し落ち着こう。こんな時間に家を出てきて、家の人にはちゃんと言ってきたのか?」
大輝は縦に首を振った。