book≪掌編≫

□ノンストップ
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君の瞳がまっすぐ僕を見つめている。

強く意思を持ったその目にめまいを覚える。
でも今はそんなことを考えていちゃいけない。

「いいか、俺がオトリになる。敵を引き付けているうちにお前は背後から敵陣をたたくんだ」

茂みに身を隠した僕たちは前方の敵陣を伺う。
ここから30メートルほどのところに敵に捕らわれた仲間の姿があった。

「そんなこと出来ないよ。分かっているだろ? 僕は君と違って――」
「何言ってるんだよ。もうこれしかないんだ」

君が言っていることは正しい。
僕たちに残された時間はもうないのだ。
しかし。

戦闘を開始してからすでに一時間。
一緒にいた仲間たちも次々と敵の手におちた。
今残っているのは君と僕だけだった。

敵陣の制圧と仲間の救出。
それが今僕たちに課せられた使命だ。
これがクリアできれば僕たちの勝利となる。

「どうして僕が残っちゃったんだろ。僕なんかじゃ、足手まといになるだけなのに」
「バカ。そんなこと考えるな」
「だけどっ」

僕はみんなと違って足も遅く、気の利いたことも出来ない。
体だって小さい。
こんなことなら僕が仲間の誰かの代わりに捕まれば良かったんだ。
そうしたら君がオトリになんてじゃなくて、もっとリスクの少ない作戦が考えられたのに。

「お前は確かにドジだけど。でもさ、だからこそ敵もお前が出てくるなんて思っちゃいない。俺を押さえれば敵は勝ったって思うさ」

君はそこでにやりと笑った。

そりゃリーダーの君を押さえた敵は完全勝利と思うだろう。

「――分かったよ。そこにスキが出来る。僕は背後から回り込んで敵陣をつく」
「そう。さすが分かりが早いな」

君の立てた作戦だもの。分かるさ。
キーとなるのは僕。
こんな僕だから誰も予想していない。

「いいか。このまま逃げ切ったとしても確かに俺たちの負けにはならない。でも俺は捕まってしまった仲間を助けたいんだ。仲間を見捨てるなんて出来ない」

君の手が僕の両肩を掴む。
君の思いは充分すぎるほどよく分かっていた。

いつも君と一緒だった。何でも率先して行動を起こし、先走っていそうで仲間を気遣う君。
だからこそ、みんな君に付いて行く。
君のためなら誰もがその身を投げ出すだろう。
僕だってそうだ。そのつもりだ。

僕はもう一度、敵陣のほうを見た。

夕闇が迫りつつあった。
これが最後のアタックとなるだろう。
敵もそれが分かっているから守備を固めだしている。
敵将の周りに二人、捕虜とした僕たちの仲間の周りに三人。
 

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