白鳥中編

□美食用彼氏 前編
1ページ/1ページ


私は好きなものを食べたいの!

 美食用彼氏 前編

  白鳥サクラ

「俺、美咲が好きなんだ。良かったら・・・」
よく有る光景。
「良いわよ。」
美女は笑って返事をした。

返事をした白川美咲は美しかった。
そして此の頭の良い大学でもトップクラスの成績、裕福な家庭環境、全てを手にして居た子だった。

そんな彼女は告白をして来た彼を見定めた。
耽美な容姿、噂の頭脳、人気の有る人だから悪くは無いのだろう。

「郁真君、白川美咲と付き合うらしいよ。」
「え、白川美咲って先月薬学部の人と付き合わなかった?別れたの?」
「ほら、彼行方不明って。」
たちまち広がる暇人の飽き無い噂。
まああながち間違って無いのだけれど。

噂をされる事に悪い気はし無い。
噂をすると云う事嫉妬して居ると云う事。
昔から羨ましがられて生きて来た。
寧ろ今更嫌がる事なんか無い。

さて、今回の彼とは何時迄続くか。

「こんなの要ら無い。私、食べたいものしか食べ無い!」
それは私が小学生の時。
給食に文句を付けたのだ。
私は其の時カレーを食べたい気分では無かった。
何を食べたかったのかは覚えて無いけれど、給食のカレーは貧相な味がした。
パパが美食家で有る影響で舌が肥えて居た所為も有るだろう。

其れに気付いたのは中学生。
其れは私に一生付き纏う病気と成った。

食べたいものを我慢出来無い病気。

我慢は出来る方だと思って居た。
自分の株を考えて、苦手な人とも仲良くして来た。
でも、食の事だけはどうしても子供の様に駄々を捏ねてしまうのだ。

パパに其れを打ち明けたら見事に共感して呉れた。
しかし、其の執着心は父親以上だった。

「パパ、お願いが有るの。」
或る日、仕事から帰って来た父親に向かって言った。

「ラウを食べては駄目?」

ラウはうちの飼い犬。
私の大好きな家族同然の幼馴染。

私の望みは全て叶えたがる父親は困った顔をしたが、やはり拒否された。
でも私は、

我慢が出来無かった。

調理包丁でラウの御腹を切り開き、臓器を取り出し、肉を切って食べた。
料理が出来る方だった私はラウを其れ成りの形に調理出来た。

正直特別美味しいわけでは無かった。
けれど、優しい味がした。
ラウの味。
私は思った。

残った臓器と骨、そして首輪を庭に埋めた。
服に付いた血は愛しくて洗い流せ無かった。
だってラウの血だもの。
今は錆びてしまった調理包丁と私のクローゼットの中に仕舞って有る。

私は其れをパパに打ち明けた。
パパは一瞬戸惑ったが、私のした事だし、もう取り返しも付か無いと悟ったのだろう。
笑って、
「笑が無いね。」
と言った。

ラウは鎖が切れて逃げた事に成った。
パパが其うしたのだ。
私は一生懸命泣く真似をした。
悲しくなんか無いのに。
でも、淋しくは在った。
もうラウと遊べ無いのだから。

暫くして禁断症状が出た。
大好きなマカロンを食べても治ら無い私の病気。
それは私を猛烈に動かして行動に移させた。

私には好きだった男の子が居た。
大好きで大好きで我慢が出来無かった。
私は彼を殺してしまった。
直ぐに食事が出来無いとは解って居たけれど、学校の中庭の隅で殺した。
叫ばれたく無かったので後ろから忍び寄って細い首に見惚れながら其の首を絞めて殺した。
彼は少し呻き声を上げたけれど、元々人の来ない場所。
気付く者等居無かった。

彼の死体は車で運んだ。
パパが手配して呉れたのだ。
後部座席に私は彼と並んで座った。
首を絞めた時、彼は凄い顔をしたから眼を綴じて貰った。
でも彼は眠って居る様で綺麗だった。

家に着いてから、私は直ぐに彼を捌いた。
人間の人体の仕組みはよく頭に入って居たのでラウの時より簡単だった。
喜びで手が震えた。
嬉しさで涙が出た。

一通り自分で分解すると、パパが寄越して呉れたコックが調理して呉れた。
美食家のパパも認める一流のコックだ。

コックは少し苦い顔をしながら分解された彼を見た。
「やっぱり貴方でも出来無いかしら?」
するとコックはにこっと笑って呉れた。
「大丈夫ですよ。やってみましょう。」

彼の味は食べた事の無い、言い表せ無い美味しさだった。
一度きりの味。
味わってはいけない禁忌の味。
神様が人を殺めてはいけないと言ったのは、人の美味しさを知って殺し逢いが起
きる事を防ぐ為だわ。
同時に、私は此のコックが大好きに成った。

高校生に成った私は新しい病気、と云うか癖に気付いた。
「嵐山君て美咲の事好きそうだよね。」
すると私は嵐山君が大好きに成った。
そう、人を直ぐに好きに成る癖だった。

嵐山君の話をするとパパは言った。
「美味しそうな子だねぇ。是非家に招待しなよ。」
嵐山君を誘うと、嵐山君は快く来て呉れた。
多分私の事が好きだったのだろう。

嵐山君は家に来て驚いて居た。
まあ庶民が住む様な家では無い、パパの財で築き上げた白い豪邸の様なものだ。

嵐山君を居間に通してパパと一緒に食事をした。
普通の友達の家に行き、ゲームをする感覚では無い事に嵐山君は戸惑って居たが
、快く会話をして呉れた。

「嵐山君、料理はどうだい?」
「はいっ凄く美味しいです!こんな僕に有難う御座居ます。」
「いやいや、私は美食家でね、美味しいものが好きなんだ。気に入って呉れて良
かったよ。」
嵐山君は笑って居た。
私は其の笑顔が大好きだったのだ。
「実は今日も良い食材が手に入るのだよ。」
「そうなんですか?」
「良かったら食べに来て呉れたまえ。」
「はい!是・・・」
「パパ」
此処で私が口を挟む。
パパと笑いながらしたリハーサル通りに。
「それは無理でしょう?」
嵐山君は驚いた顔をした。
言ってる意味が解ら無くて戸惑って居る様だ。
「だって・・・」

「食材は嵐山君なんだもの。」

嵐山君も勿論美味しかった。
パパも最高の美食を見付けたと喜んで呉れた。
でも、やっぱり嵐山君が居無く成るのは淋しかった。

嵐山君の件も其の前の件もパパの御陰で揉み消された。
ママは自分の危機を感じて居無く成ってしまった。
パパは其れ成りにショックを受けて居たけれど。

其れから私は好きな人を作っては食べる様に成った。
禁断症状が出る頃が丁度食べ頃。
其の度私は飽きない絶品を憶えた。
好きな人はマカロンに変わる大好物に成った。

「美咲、其れ重いだろ?持つよ。」
郁真君はとても優しかった。
頭も良いから言ってる事もまとも。
直ぐ好きに成った。
でも、食べるのは未だ。
食べ頃は未だ。

パパは相変わらずママを探して居るみたいだった。
家の者を使って騒動力で探して居るけど見付から無い。
佐々と見付かると思って居たので其れは私も驚いたし、其れはは凄い事だ。
ママはパパの事をよく解ってるんだなあと思ってしまった。

郁真君は本当に良い人だった。
彼は本が好きだった。
私も好きだったので凄く話が合った。
私は狂気殺人ものが好きだった。
病んだ恋をして相手を殺してしまうものだ。
どうせ食べる相手だし、もう私から逃げる事も出来無い。
引かれるのも覚悟で言ってみた。
そしたら彼は笑って言った。

「そう云う恋愛って素敵だよね。」

どうやら彼も少し歪んで居る様だった。

或る日パパと食事をして居たらトラップに人が引っ掛かった。
ママ捜索で家には私達とコックしか居無かったのでパパは代わりにトラップを仕
掛けたのだ。
見事に引っ掛かった愚かな侵入者はパパの敵会社の幹部だった。
勿論捕まえた者を只で逃がすわけも無い。
パパはコックに言った。
「調理して呉れ。」
パパは好きで無い人の肉も食べれるみたい。
私は好きな人の肉しか食べれ無いけど。

私は彼に対して今迄の食材と違う感情を憶えて居た。
今迄の好きな人達は食材としか思って居無かった。
でも、郁真君は何故か違った。
普通の恋人としての付き合いが出来て居る気がした。
初めての感情。
今迄以上に美味しいのだろうなあ、
私は思った。

とうとうママは捕まってしまった。
そう、家に帰って来たママは叫び声を上げて居た。
「嫌よ!食べられるだなんて!」
パパは一生懸命宥めて居たけど無駄だった。
「私は貴方の食材じゃ無いわ!」

パパがママを本当に食べる気が合るのかは解ら無い。
ママは知ってしまったから恐怖した。
私の病気を郁真君に言ったら郁真君はどう思うんだろう、
気に成った。

郁真君に例え話をした。
「もし好きな人を食べてしまう人が居たら、郁真君はどう思う?」
郁真君は少し驚いた顔をした。
でも、私の顔を見て真剣な顔をした。
「うーん、俺は良いと思うよ。」

「愛の形は人それぞれじゃないかな。」

ママは発狂して居た。
何回か逃亡を図ったりもしたが勿論捕まった。
パパは其の度に宥めてたけど逆効果だった。
「私の肉を喰おうとしてる癖に!」

私は気持ちを抑えられ無く成った。
郁真君に秘密事をしたく無いと思った。

「郁真君、御免ね。少し良いかな?」
郁真君は何ともなさそうに聞いて呉れた。

「此の間カニヴァリズムの話、したでしょう?」
郁真君は少し驚いた顔をして居た。
「あれね」

ワタシナノ

郁真君の顔を見れ無かった。
「本当に?」
私は無言で頷く。
あぁ、どうしよう。
彼はきっと引いただろう。
私の顔ももう見て呉れ無いだろう。
恐れおののくのだろう。

「ふーん、良いじゃん。其れも、」
え?
「言っただろう?」

「愛の形は人それぞれ。」

後書キ
入り切ら無かった悲劇です、今日は白鳥です、と云う事で近い内に続編ぅPれると思います、短編の方も多く成って来たので中編でも作ろうかと笑
読んで下さった貴方様に感謝を込めて、

白鳥サクラ 101114


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ