04/25の日記

16:21
来客
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薩摩藩邸に、土佐藩の乾という御仁がおいでになった。
玄関で出迎えた時は、おいを一瞥してなんも仰らずに中にお入りになりもした。大久保さぁに負けず劣らず気難しいお方かと思うたら、ちょうど文の使いで来ておった寺田屋の娘さぁを見た途端手を握って離さんで、驚きもした。
真っ赤になって驚いておる娘さぁを見て、楽しそうに笑う乾殿を眺めて、大久保さぁはあの男もこの癖さえなければいくらかましなのだが、とため息。

やっと手を離してもろうて半べそでおいのところに泣きつく娘さぁを見て、初めて乾殿はおいに気づいたようにちらりと目をあげた。


お話しは小半時ほどで済み、再び玄関で護衛も兼ねてお見送りをする。乾殿は何やら辟易したようにおいを見やり、扇子で口元を隠すと大久保殿も無粋な番犬を飼っているようだ、とおいにも聞こえるように呟かれた。
無粋かどうかは知らんが、つかえる男だ、と大久保さぁもそっけなく返事を返す。すると突然乾さぁがおいに向かって、おいそこの狗、と呼ばわるので他に誰もおらんし、おいのことじゃろうと思うてはあ、と返すと大久保さぁの頬がぴくりと引き攣ったように見えもした。

乾殿はおいを見て、土佐の岡田は狗と呼んだら今にも抜きそうな殺気立った顔で見ていたがと可笑しそうに仰った。
そうでごわすか、と以蔵どんの顔を思い浮かべてつい気の毒になって眉を下げると、お前はなかなか面白いやつだ、とまたお笑いになった。

乾殿は今度は大久保さぁに向き直り、手を握って身体を寄せ、ではまたと挨拶を始めた。大久保さあの背中が僅かに震えたのが目に入り、思わず割って入ってしもうた。

そんときばかりはつい、顔に心持が出てしもうたらしい。

乾殿はなんでいきなり人斬りの顔になるんだ、とぼやいてあっというまにお帰りになりもした。


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