04/14の日記

17:21
花見酒
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大久保さぁが伏見の藩邸に御用があるちゅうことでお供をする。
帰りの道中、ふと見やると道を外れたはるか向こうに桜の木がみえる。かすむような淡い色に惹かれて大久保さぁをお誘いすると、断られると思いきやあっさりと承諾してくださった。
実は、もしもこげん機会があったらと思うて、懐に菓子を忍ばせておった。つい嬉しくてぽんぽんと胸を叩くと、大久保さぁは怪訝な顔をしちょった。

辿り着くと、見事な桜の大木じゃった。それも一本だけ天を仰ぐようにどっしりと生えていて、毅然としたたたずまいに思わず大久保さぁのようですな、と呟いたらどうせ私は独りが似合っていると言いたいのだろう、といつになく拗ねたような口調。
慌てて機嫌を取ろうと懐の菓子を差し出すと、驚いて目を丸くし、その後突然笑いだされた。
ひとしきり笑うと、包みから菓子をひとつ取って口に放り込み、無言で桜を見上げておいもした。

おいはもう一つ隠していた、しっかりと蓋をした小さな徳利をそっと袴に手を突っ込んで取り出す。
やはり花見には酒。
桜を見ていた大久保さぁに差し出すと、にやりと笑ってたまには風流もいいか、と手を伸ばしてくださった。

お前こんなものをどこに隠していたんだと上機嫌で訊かれるので、下帯の間に挟んでおりもした、と答えるといきなり口に含んだ酒をふきだした。何やら真っ赤な顔でおいを睨んでおるので、どげんしもしたか、と背中をさするとうるさい、と怒鳴って徳利を投げて寄越しさっさと歩きだしてしもうた。


酒はひと肌が一番美味いというに、へんなお方じゃ。



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