11/06の日記

23:39
晩秋
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薩摩藩邸の庭先に、落ち葉が後から後から舞い落ちておる。庭を掃く下男の力強い箒跡が目にすがすがしい。ここ数日忙しく寺田屋や長州藩邸を動き回っておったせいか、そんな景色が目に入らなかったことに驚きもした。

落ち葉を集めて唐芋を焼きたいと寺田屋の娘さぁは言っておった。それを聞いた大久保さぁは珍しく声を上げて笑われて、そのうち唐芋が手に入ったら届けさせると約束しておった。おいもご相伴の誘いを頂いたので、楽しみでごわす。

庭を眺めておったら、ご家老の小松さぁが通りがかる。何をしているのか、とお尋ねになったので落ち葉を見ておりもした、と答えると風流だねえとにっこりされる。ほんにこんお方はいつも穏やかで、大久保さぁと正反対であいもす。暫く縁側からはらはらと舞い落ちる葉を一緒にご覧になると、いい気分転換になったと礼を言われてまた執務にお戻りになった。


大久保さぁは、国許へ京の動きを報告する文をしたためる為、部屋へ籠っておいでじゃ。邪魔をしてはいかんと思い、なるべく気配を隠して護衛をしている。

もう、朝からずっと詰めておることにふと気づいて、お茶をお持ちする事にした。
大久保さぁのお好みの茶を盆に載せ、再び庭先に面した廊下を歩いておると、おいの進む先にはらりと一枚、紅く染まった赤子の掌のような葉が舞い落ちた。


そっと拾い上げて、茶の脇に添える。

過ぎ行く季節も、多忙なあん御方にとってはただ追い立てられるような日々の一里塚のようなものかも知れん。一服の茶を愉しむその寸暇に、少しでも慰めになればええと思う。

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